お花とお菓子と《 Tsubaki.N 》 (ページ11)

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貴方.

角「Aさん」

『……わ、角崎さん！こんにちは！』

角「こんにちは。お元気でしたか？」

『ええ、それはもう！』

共同生活にも慣れた頃、角崎さんとは頻繁に話すようになっていた。鹿楓堂に訪れる彼は、スイーツを注文しては、感想を椿くんに伝える。ルーティンなのかな？椿くんも何やかんや言って角崎さんを尊敬しているのか、いっつもそわそわしてるし。

ときたかくん曰く、角崎さんと性格は合わないけれど、お菓子作りに関してはとても真面目な人だと思っているらしい。素直じゃないんだから……

角「今日の装飾も美しいですね。Aさんが仕込みも担当されているんですか？」

『はい、お花に関しては好きにやらせてもらっていますね。今朝は綺麗なベゴニアが目に入って……寒さに弱い花なんですけど、室内が暖かければ長持ちするんです』

角「へえ……知らなかったな。本当に花がお好きなんですね」

『ふふ、それはもう』

ほどよく太陽の光が当たる室内で、手をかけてやれば長く綺麗に咲いてくれる。ほんのり薄桃色のそれは、落ち着いた鹿楓堂の雰囲気にぴったりだと思った。フラワーショップで見かけたとき、すぐに仕入れようと考えたほど。

角崎さんはパティシエだと聞いたけれど、こうしてお花についてよく質問してくれる。何でだろう……ちょっと気になるな。

角「……実は、Aさんに折り入ってお願いしたいことがあるんです」

『え？私ですか？』

角「はい。優秀なフローリストの貴方だからこそ、頼みたいことなんですが」

『……何でしょう？』

ピークも過ぎて、客足が引いてくるこの時間。今思えば、角崎さんが鹿楓堂を訪れるのは、決まってこの時間帯だったような。真剣な表情の中にも、穏やかな笑顔が見えて、不思議と不安はなかった。

角「イーストサイドグランデの宴会部門で、披露宴を担当しているのですが、新たなフローリストとの契約を結んでくるように頼まれていまして、」

『披露宴……となると、会場装花の類ですか？』

角「ええ、そうですね。メインテーブルや、ゲストテーブルだったり……Aさんもご存知の」

『……私が、装花を担当する、ということですか？』

にこりと微笑んだ角崎さんは、「話が早くて助かります」と、カップをテーブルに置いた。