愛をかぞえて《 Ryosuke.Y 》

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貴方.



『ぎじ、れんあい……？』

「はい、疑似恋愛です。分かりやすく言うと、恋人ごっこのようなものですかね。少し安っぽい表現にはなりますが」

『……えと、あの、』




淡々と、至って冷静なトーンを保つ佐々木さん。困惑している私がおかしいんじゃないかと思ってしまうほどには、電話越しの彼女は落ち着いていた。「擬似恋愛」と繰り返しても、あまり意味がついてこない。




「タレントと言うのは、やはりイメージが全てです。弊社は主にアイドルをマネジメントしている、というのはご存知ですよね？」

『はい……それなりには、一応』

「アイドルは、夢を売る職業です。日常を見せすぎるわけにはいきませんし、恋人なんてもってのほかです。隠し通せるなら未だしも……」




「週刊誌というものは、他の果てまで追いかけてきますから」

そう呟いた佐々木さんは、「そこでです」と声のトーンを上げた。まるで明るい話題をするかのように、ポジティブに。……私には、そんなに良い提案には思えないけれど。




「事務所による厳正な審査を受け、それをクリアした女性……つまりは結野さん、貴方です。貴方には、弊社のタレントの恋人として生活してもらいたいわけです」

『……それは、その、タレントさんは納得していらっしゃるんですか？』

「もちろん。寧ろ恋愛に対して少しネガティブになっていますから、癒しを求めているようなものです」

『癒し……』

「結野さんなら、彼の心を満たすことができます」




「面接をしていてそう感じました」と、優しく笑った佐々木さん。

正直、彼女の言葉が本当かは分からない。もしかしたら嘘かもしれないし……100パーセントの真実なんて、ないのかも。それでも、私にできることがあるのなら、


就活も上手くいかなかった身だ。ここ以外に頼れるところなんてないし、もう逃げる術もないんだろう。私は、所謂機密情報を知ってしまったのだから。




『……分かりました。やれるだけのことはやってみます』

「ありがとうございます！そう言っていただけると信じていました」




佐々木さんによると、早速彼が会いに来るらしい。今夜……撮影が終わった後、そのままの足で。

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