愛をかぞえて《 Ryosuke.Y 》

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貴方.



『ほんとに始まるんだなあ……』




大学を卒業して、そのまま事務所に就職した。恐らく日本に住む人なら誰もが知っている大手芸能事務所で……私も、名前くらいは知っていたけれど。

それにしたって驚いたなあ。大手とはいえ、一社員に一軒家までプレゼントするなんて。ここで働く限り、半永久的に家賃補償まであるときた。とんだホワイト企業でびっくり。


ただ、仕事内容についてはひとつも聞かされていない。とにかく身なりを整えるよう、やたらと服や化粧品類、ヘアケア製品までもらったんだけど……やっぱり芸能事務所だから、芸能人と会えるのかなあ。

でも私、そういうの疎いし……なんて、不必要な不安を抱えながら、今日のスキンケアを終えた。




『……あ、電話だ』




採用担当の方は、佐々木さんという女性の方だった。私より年上で……30代くらいかな？この事務所で働き始めて長いらしい。分からないことがあれば何でも聞いてください、と電話番号を交換していた。今日から始まる社会人生活において、頼れるのは彼女のみ、というわけだから……

でも何だろう。同僚とか、上司とか……そういう人はいないのかな？まだ会わないだけ？疑問はたくさんある。




「こんばんは、結野さん。いかがですか？新生活は」

『こんばんは……そうですね。本当にこんなところに住んでいいのかなって、逆に不安で、』

「大丈夫ですよ。結野さんは、それくらい弊社に必要な人材なんです」




優しく笑った佐々木さんに、何だかくすぐったくなる。生まれて初めてここまで肯定されたというか……だからこそ怪しむべきなんだろうけど、人というものは単純な生き物だから。嬉しくて舞い上がって、見捨てられたくないと縋り付いてしまう。

でも今の私には、これしかない。




「忙しなくて申し訳ありませんが……本題に入りますね。仕事内容を説明いたします」

『あ、お願いします』




彼女は今、事務所内にいるんだろうか。だとしたらとても落ち着いた雰囲気の環境なんだな……物音ひとつ聞こえない。

なんて、呑気なことを考えていた自分へ。……私はどうやら、とんでもない世界に飛び込んでしまったらしい。




「結野さんには、……弊社所属タレントの、疑似恋愛の相手をしていただきます」

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