龍神さんと。3

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「あの、さっきさ、」

「なに。」

「なまえ、」

「Aって呼んだ。駄目？」





ひゅ…と、息をのむのがわかる。





「別に、いいっしょ、呼び方くらい。

　ってか、みんなほとんど名前呼びじゃん。


　俺も呼んでもよくない？」






イエスともノーとも聞きたくなくて、

もうヤケになってまくし立てた。







「じゃあ、あの、彼女って、」







まだ言うか。


いねぇっつってんのに。







「もう、その話よくない？」









あ〜、もう、



そんな悲しい顔させたいわけじゃないんだって。







傷ついた顔すんの、やめてくれる？








そこんとこ掘り下げられると、



このまま帰れなくなるやつだから。






もう流石に、


今から告白するとか





そんな勇気ないわ。







だから、今日はこのへんで。









「あと、これ。」









顔も見ずに、


さっき買ったリップの入った


男が持つには可愛すぎるショッパーを押し付ける。






もう、ほぼヤケクソ。



プランもなんもあったもんじゃない。







今日、一歩進めるのは諦める。




名前呼びできただけでもすごくない？







なんて、


ハードルはぐんぐん下がって。









おれ、



まじで





こんなヘタレだっけか？







なっさけね〜。





ちょっと、


だいぶ、




消えたい、かも。





なんて、気持ちがどん底に落ちかけた時、










「…ありがと。」











小さな声が聞こえてきて、


顔に熱が集まってくるのが分かる。








「…帰るか。」


「…ん。」


「ほい、歩ける？」









差し出した手は、



最後の悪あがきで。









この手を拒否られたら、


結構凹むかも。







なんて、内心ビクビクのくせに、






可能な限り



涼しい顔をして、













る、つもり。













「…しゃっす」


「…っす」








その取りに




色気もなんもねぇな、


なんて思うけど。





まぁ、


俺達にはこのくらいがちょうどいいのかもな、






今のところは。









「…スタバ、忘れないでよ」

「へぇへぇ、わかってますよ」








空気を変えようとしてか、


そんなふうにふざけてくれるのが




今はありがたい。










いつかきっと、




もっとちゃんと、




気持ちを伝えよう。










それまでは


まだ、




このくらいでいっかな。








なんて、


繋いだ手を






握り返した。

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