スーパーシートのきみ

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「すみません。

　あと少し、お時間いいですか？」




申し訳なさそうに、

体調を慮りながらもスーツの人が聞いてくる。







「？はい。大丈夫です、けど…、」







返事の途中で、










私の口は言葉を紡ぐことを忘れてしまった。















そこに立っていたのは、


私が憧れたその人で。






たくさんたくさん写真を撮りたかった人。










石川祐希選手






その人だった。














全日本のジャージ姿でそこに立つ、石川選手。




どうしても一言お詫びをしたいと、


試合が終わってすぐに駆けつけてくれたそうで。







「すみませんでした。」





と、それはそれは深々と頭を下げる姿を、

現実のものととらえられずに呆然と見つめる。








「僕がもっと早く気がついていれば、
　
　カットできたはずなので。」








と、常人には考えも及ばない謝り方をされて、


ちょっと冷静になる。






いや、あれ、見えるの…？





なんて、くだらない考えは、


目の前で本当に申し訳なさそうにしている石川選手を見れば


どこかへ吹き飛んでしまう。









ボールが当たる直前、



危ない、と警告してくれていたのは、







確かに石川選手だった。








自分が打ったわけでもないボールが当たった観客。





それだけでしかない私のことを


気にかけてくれていたのが





とんでもなく嬉しくて。









わざわざ病院まで駆けつけてくれるその優しさに、




胸が一杯になる。











私が憧れた選手は、





プレーだけでなく







こんなところでも人を感動させるのかと










胸が震えた。

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