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歌い手。とは、なんだっけ。

突然のカミングアウトに、頭の中が宇宙に行ってしまったような気分になった。幸いにもすぐに戻ってこれたので、歌い手について浅い知識ではあるが引っ張り出すことに成功する。


「歌い手って、あのニコ動とかの」

「世代出てんな。そうそう、その歌い手。なんかありがたいことにデビューとかもしてて、多分、隠せへんし話とこうと思って」

「え、デビュー?…私の弟すごすぎ?」

「いや、何もすごくないよ」


謙虚なのか。歌やエンタメ系の才能が皆無の私からすれば、十分過ぎるほどにすごいことだと思うけれど。
本人がそう言うなら押し付けるようなことは言うまい。
それはそれとして、坂田くん(弟)の表情がとても浮かないのはどうしてなのだろう。


「一応、ファンとかもおるし、Aにも迷惑かけることになるかも知れへんから、誤解されんうちに姉と妹ができたことは公表せざるを得んかもって、思って、る…」

「そっか〜大変なんだね、歌い手って」


芸能人よりは距離が近いけれど、一般人よりは遠い存在。微妙な線引きの弊害は、色んなところに潜んでいるのかもしれない。


「……え?」


神妙な顔で頷いていれば、ぽかんとした顔で坂田くん(弟)がこちらを見ていた。


「え?」

「それだけ?」

「え、それだけって…なにが?」

「嫌だな〜とか思わへんの?」

「え、私も今の職場に兄と弟できたこと言ってるよ?苗字変わったし…まずかった?」

「いや、詳しく話されるとあれやけど…。兄弟増えたくらいやったら」

「うん、だから大丈夫」


良きに計らえ。とまでは言わないけれど、坂田くん(弟)なら悪いようにはしないだろうし、信頼している。
言うて所詮私は、しがない一般人である。リスクについて何も考えてないと言われればそれまでだけど、そもそも考えられる発想力がないのだから仕方ない。


「なんやねんも〜…」

「え、なんで、そんなに脱力?」


あまりに呑気すぎただろうか。
気が抜けたように机に伏した坂田くん(弟)が、ちらりと伺うように上目でこちらを見た。


「…嫌な思いさせるんちゃうかなって思ってた」




私の弟可愛すぎない?

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作者名:こま | 作成日時:2021年10月31日 14時

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