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「熱っ」
もう少し冷まして飲むべきだったか。
マグカップを脇において、見慣れたデスクトップに視線を移す。椅子に座り直して気合いを入れて、さあ仕事。と見せかけた完全なる趣味である。
有料の動画配信サイトで映画やアニメを見るこの時間が、私にとって最高の息抜きだった。できればリビングのテレビで見れたら更に最高だなとは思うけれど、趣味全開の履歴を見られるのはまだ少し抵抗がある。
イヤホンを耳に押し込んで、見ている途中だったドラマの続きを再生した。
動画を見始めてどれくらい経っただろうか。ドラマからではないノックの音が聞こえた気がして動画を止める。
再度聞こえるノックの音に慌てて返事をした。
ノックで尋ねてくるような人物なんて、今この家には一人しかいない。
「はーい。何かあった?」
「んーあんなー、話しときたいことがあんねん」
「込み入った話?中で話す?」
扉を広く開けて中に入るように促せば、坂田くん(弟)はこくりと頷いて私の横をすり抜ける。部屋の真ん中にある座椅子を薦めれば、どこか居心地悪そうに腰かけた。
「どうしたの?私何か気に触ることとかした?」
「や、何もしてないよ、そんなんやないって。動画見てたん?」
「うん、今見てるドラマがあるんだよね」
「どんなやつ?」
「海外のゾンビのやつ」
「そんなん見てんの?」
ゾンビ系のイメージがなかったのか、ちょっと驚いた顔でデスクトップを二度見する坂田くん(弟)にちょっと恥ずかしくなってくる。
「そういえば、話ってなんだったの?」
話を逸らすように言えば、本題を思い出したのか入ってきたときと同じどこか神妙な顔に戻ってしまった。
「あんな、前にさ、俺の仕事のこと聞いたやん?」
「あ…うん。初めて会ったときだね」
「あんときは言えんかったんやけどさ、俺、歌い手やってんねん」
……歌い手???
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作者名:こま | 作成日時:2021年10月31日 14時