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「はっ!私、寝てた…」

「いや、寝ててええねん。何で、あかんみたいなテンションなん?」


見慣れた顔が、すぐ隣で私を見下ろしている。
さかたくん。
反射のように漏れ出た声は自分が思っていたよりも何倍も間抜けな声をしていて、坂田くん(弟)はなんて声出してんのと笑った。
声が普段よりも優しく聞こえるのは、私の体調を気遣ってれているからだろうか。
と、言うかあれ、どこまでが現実なんだろう。あれ、私確か薬と飲み物を取りにリビングに?あれ?


「気分はどうなん?」

「…寝る前よりは、マシかも、知れない…」


怠さの残る体を起こそうとして、坂田くん(弟)の手に制された。
そういえば、看護の仕事に就いていたことがあるって言っていたっけ。素直に布団に入り直す。私を見る瞳に心配が滲んでいた。


「あの、ね、坂田くん、私、」

「なあ、A?」


強い意志を持ったはっきりとした声に、掠れた声はかき消された。やけに凛とした声と真っ直ぐに向けられた視線がひどく胸をざわつかせる。


「ちゃんと話し合いもせんと逃げてしまってごめんな?改めて確認なんやけど、Aは新しい家探したいん?ここから、出て行きたいって思ってるん?」

「お、もってない。出て行きたいなんて思ってないよ。前も言ったけど、坂田くんと一緒に住んでから、本当に毎日楽しくて」

「うん、」

「できるなら、これからも、一緒にいたいです」


最初からこう言えば良かったんだ。言葉にするのを躊躇ったせいで拗れてしまった。
私の言葉に頷いてゆるりと頬を緩める坂田くん(弟)の顔を見ていると、私の一方通行じゃないのだとわかる。


「俺もな?こんな気楽に過ごせると思っとらんかったし、Aやなかったらこんな楽しいって思えんかったと思う」

「うん…」

「うらさんと話して、俺、やっぱりAに出て行って欲しくないなって思って…。Aに先に言われてもうたけど、嫌やないんやったら、これからも一緒に暮らそ?」

うん、と頷いたつもりだったのに、ひくりと喉が震えて飲み込まれてしまった。
坂田くん(弟)の言葉に安堵したのと、熱で涙腺が緩む。


「泣かんでよ」

「ないてないよ…!」


慌てて顔を背ける私を見て、坂田くんは声を出して笑った。

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作者名:こま | 作成日時:2021年10月31日 14時

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