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「……出て行ってほしく、ないもん」


まるで叱られた後の子供のような、伺うような声色でぽつりと。確かに届いた坂田の本音に、やっと言ったか〜と大きく天を仰いだ。
相変わらず頑固なんだからこいつは。
思わずこぼれた笑み。馬鹿にされたと思ったのか、坂田がぶすっとした顔で俺を睨んでいた。
宥めるように言葉を重ねる。


「Aも出て行きたいなんて思ってないって」

「なんで言い切れんの」

「なんでって…昨日。夜中に探し回ってたらしいよ、坂田のこと。まーしーから連絡来てた」

「えっ!?」


目を見開いて身を乗り出す坂田の様子に、呆れて小さなため息をついた。
そんだけ気にしてるやつが、出て行きたいならしょうがないなんてどの口が言うんだか。


「坂田が連絡無視してるから、まーしーに連絡するしかなかったんでしょ」


Aが連絡先知ってるの、お前と共通の知り合いなら家族の他にはまーしーくらいだろうし。(知らないけど。)
そう付け足せば、坂田はもにょもにょと言葉を濁して複雑そうな顔で乗り出した体を戻した。


「話したいことがあるから、わざわざ探してたんじゃないの?もし出て行きたいなら、そのまま出てってるって。向き合おうとしてくれてんなら、話してみたら?」

「うらさん…」

「大丈夫だって。何かあっても、俺らがいるじゃん!」

「…それ、Aが出ていく前提やん。全然大丈夫じゃないやん」

「ちなみに、Aはまーしーが昨日ちゃんと送り届けてくれたらしいから」


難しい顔をしていた坂田が、長く細い安堵の息を吐いて肩の力を抜いた。
今までの思い詰めたような空気が霧散して、いつもの坂田が戻ってくる。


「だから、坂田はちゃんと家に帰って、Aと気が済むまでしっかり話し合うこと」

「……うん」

「言いたいこと遠慮なく言い合えるのも、家族なんだからさ」


まだ少し緊張したような表情ではあったけど、まっすぐ俺の目を見てしっかりと頷いた坂田によしと笑う。
お腹空かない?何か食べる?と腰を上げた俺の視界の端でスマホが震えた。
手を伸ばして画面を見れば、通知にはセンラの名前。メッセージの内容を通知画面で確認して、すぐに画面を消した。


"Aちゃん、大丈夫そう"


全く、世話の焼ける姉弟だこと。
続けざま震えたスマホに、再び視線を落とす。


"連絡先も交換した"


何してんだ、こいつ。

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作者名:こま | 作成日時:2021年10月31日 14時

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