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「昨日は思い詰めた感じだったから何も聞かなかったけどさ、そろそろ何があったか話してみたら」
昨日の夜、突然思い詰めたような浮かない顔で訪ねてきた坂田。どうしたと聞いても別にの一点張りだったので、ほとぼりが冷めるまでと思って触れないでいたけれど。
ただ、昨夜の内にきたまーしーからの連絡で、坂田とAの間で何か揉めごとがあったってことは既に知ってる。
まーしーには、坂田は俺の家にいるからAを無事に送り届けてあげてと連絡を返し、坂田の前では何も知らないフリを突き通した。
「俺は別にいいんだけどさ、坂田が泊まりに来るくらい。でもなんか元気ないし坂田。俺で良かったら話聞くけど」
一晩経って落ち着いたのか、はたまたお世話になった手前話さないわけにはいかないと思ったのか、坂田はぽつりぽつりと昨日あったことを話し始めた。
Aが新しい家を探していること。同居が期間限定だったこと。迷惑だとか思ってないのに、Aに伝わってなかったこと。Aが出て行きたいと、思っていたこと。
坂田の話を一言一句漏らさず聞いて、本当にこの姉弟は。と思った。
「話はわかった。てか、そんな状態で俺ん家に来て、その間にAが荷物まとめて本当に出てったりしたらどうすんの?坂田はそれでいいの?」
「…Aが出て行きたいんやったらしゃあないやん」
「それは坂田が勝手に思ってるだけだろ。言ったの?Aが。迷惑だから出て行きたいって」
坂田は、思い返すように視線を逸らす。
すぐに言葉が出てこない辺り、あまりの衝撃に感情的になってよく覚えてないのかも知れない。
Aと知り合ってからまだそこまで時間は経ってないけれど、彼女はそんなこと言わないだろうな、と思った。
坂田とAはどこか似ている。言葉の裏なんか考えるだけ無駄だし、変なところで気を遣う。
「じゃあ仮に、Aが出て行きたいと思ってるとして、一緒に暮らしたのに見送りもしないの?」
「み、おくりとか…できるわけ、ないやん」
「なんで?」
辿り着く答えは決まっているようなものだけど、敢えて問い詰めるように尋ねる。
「……しんどいやん」
「誰が?」
「……おれ」
「なんで?」
「なんでって…」
坂田の顔は、なんで何回もなんでって聞くん?と言わんばかりに不満気で。
だけど、それ以上何も言わない俺に少し考え込む素振りを見せた。
そして、ぽつりと。
「……出て行ってほしく、ないもん」
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作者名:こま | 作成日時:2021年10月31日 14時