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「突然でびっくりさせてすいません」
部屋を尋ねてきたセンラくんは、出迎えた私の顔を見て優しい顔で微笑んだ。
何の話をされるんだろうと怯える心が、どうぞ、と家の中へ促す私の声を震わす。
リビングへ誘導して、お茶を用意する私にセンラくんはいつもと変わらない顔でお構いなくと笑った。
「まーしーから聞いたんです。坂田と何かあったらしいって。本当はまーしーも来たかったらしいんやけど、自分じゃ上手く声かけてあげられへんからって」
センラくんに差し出すお茶。その手が止まったのは、センラくんの言葉が思いもよらないものだったからだ。
連絡をしたらすぐに駆け付けてくれて、十分すぎるくらいに優しい言葉をくれた志麻さん。上手く声をかけられないなんてとんでもない。私が志麻さんの行動に言葉に、どれだけ救われたか。
「そんな、こと…」
「俺もそう言ったんですけどねえ。まーしー照れ屋やから」
からからと笑うセンラくんに、口を横に結んだ。
志麻さんから頼まれたとは言え、事情を聞いてこうやってわざわざ足を運んでくれるセンラくん。
真っ先に坂田くん(弟)の逃げ場所になって、それを受け入れるうらたさん。
坂田くん(弟)を取り巻く環境は、こんなに優しい人たちで形成されているんだ。
それなのに、私は。
「わ、たし」
「Aちゃん、俺、こうやって来といて何なんですけど、無理に聞き出すつもりはないし、話したないんなら話さんでもええんですよ？何ならAちゃんと話せてラッキーくらいにしか思ってへんし」
言葉を濁す私をフォローしてくれているのだろう。だけど、あまりにもあっけらかんと言うもんだから、肩の力が抜けて少しだけ笑えた。
「実はこの同居、期間限定のつもりだったんです。急にできた弟と一緒に住んでってお互いに無理があると思って、私は私で新しい家を探す予定で…」
「つもりやったってことは、今は違うってことですよね？」
ぽろりと漏れた言葉から、目敏く本音を汲み取るセンラくん。驚いて戸惑いながらひとつ頷く。
こうやって、しっかりと素直な言葉が伝えられていればこんなことにはならなかったのに。
後悔ばかりが胸を締めて、知らず顔が歪む。
「母親と電話をしてたのを聞かれてしまって。迷惑をかけないようにって思…」
違う、だから、そうじゃなくて。
「Aちゃん？」
「…私、坂田くんが同じように思ってくれてる自信がなくて、坂田くんを傷つけてしまったんです」
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作者名：こま | 作成日時：2021年10月31日 14時
