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「静かだ…」


昨夜、志麻さんに送り届けてもらってから、どれくらいの時間が経ったのだろう。カーテンの隙間から見える陽の光。
ポツリと漏れた独り言さえ、しんとした部屋には響いて聞こえた。
1人で過ごすことはこれまで何度もあったはずなのに、どうしてだろう、これまでにないくらいに心細い気がする。少しでも誤魔化すように膝を抱えて、身を縮めた。

後悔。罪悪感。美化された記憶。
ぼんやりとする頭に、思考がまとまらず、感情だけが垂れ流されている感覚。
胸を締め続ける感情の波に息苦しさを感じ始めたとき、突然、インターホンの音が部屋に響いた。
いつもなら坂田くん(弟)と、どちらが出るか目配せして始まる駆け引きも、今日は誰もいない。
それが更に心を重たくさせるのを振り切って、モニターの通話ボタンを押した。


「はい、」

「Aちゃん?」

「は、はい…え、っと、センラ、くん?」


モニターに映った姿や顔は防寒具とマスクでよく分からなかったけれど、声は確かにセンラくんのものだった。
私の友人にはいない、特徴的な声だから間違えようがない。


「あ、そうですそうです〜」

「あ、の、坂田くんは今…」

「や、坂田やなくて、今日はAちゃんとお話しよ思て会いに来たんですよ」


驚いて戸惑っている私に、センラくんはここで話してるのもあれやから開けてくれませんかと声で笑う。


「あ…すみません、どうぞ」


急かされるまま解錠を押して、彼がロビーに入るのをただ眺めた。
突然の坂田くん(弟)の友人の来訪に、心臓が嫌な音を立てている。センラくんが嫌だと言うわけではないけれど、彼が私を訪ねる理由が今はひとつしか思い浮かばないからだ。

坂田くん(弟)から、何か伝言を頼まれたのかもしれない。

坂田くん(弟)が私に、直接、会いたくないから。

センラくんの様子は穏やかで、決して感情的には見えなかったけれど。心中一切穏やかではいられなかった私は、彼の行動を深読みして、彼が部屋に辿り着くまでの数分を怯えながら過ごしていた。

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作者名:こま | 作成日時:2021年10月31日 14時

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