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「なあ…今のどういうこと?新しい家ってなに?何の話?」


戸惑うような声色で響いた坂田くん(弟)の声。はっと我に返って声のした方を振り向けば、リビングの入口にどこか呆然と立ち尽くす坂田くん(弟)の姿があった。


「え、っと、新しい家の話?元々、新しい家を探すつもりで見つかるまでの期間限定でお世話になる予定だった、ん、だけど…聞いて…なかった?」

「……聞いてないそんなん。え、Aもしかして今まで暮らしにくかったん?」


不安気に揺れる瞳に、私の心もつられるように不安定に揺れた。


「そんなことないよ。すごく気楽で過ごしやすいし、毎日楽しいよ」

「やったら、」


ぐっと握りしめた手。身を乗り出すようにした彼に、気遣うように言葉を続ける。


「でも、ずっといたら迷惑になるのかな、とは思ってる。坂田くん(弟)の家だし、坂田くん(弟)が快適に過ごせる方が、」

「迷惑とか思ってないってずっと言ってるやん!なんで勝手に決めつけんの!?そんなに出て行きたいんやったら俺のこと気遣うフリとかええから出て行ったらええやんか!」


被せるように響いたのは、私の言葉を否定する強い声だった。
違うと零れた私の否定の言葉より早く、坂田くん(弟)はリビングを飛び出して行く。
私の呼びかけも無視して玄関から駆け出していく背中。追いかけなければと思うのに、どんな顔で彼に声をかければいいのかわからず、呆然と見送るしかできなかった。






『そんなに出て行きたいんやったら俺のこと気遣うフリとかええから出て行ったらええやんか!』


坂田くん(弟)の言葉がずっと頭を巡っている。
ちらりと見た時計。彼が部屋を飛び出して、4時間近くが経過していた。
いつもなら暖かい雰囲気に満ちた家が、ひどく冷えきっているように感じた。しんとした部屋には私以外の気配はない。漠然とした不安が胸を占める。

今どこにいる?

何度か送ったメッセージは既読にすらならない。荷物も何も持たずに出て行った彼は大丈夫だろうか。
居てもたってもいられなくなって、必要最低限の荷物を持って家を出た。当てもなく辺りを探し回る。
彼の友人関係はほとんど知らない。連絡を無視されてしまえば、彼の居場所ひとつわからなかった。


どうしようどうしよう。どうしよう、と考えて、私は何度か連絡をしただけの、普段なら躊躇するはずの連絡先をタップした。

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作者名:こま | 作成日時:2021年10月31日 14時

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