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荷物を運んでくれた3人と入れ替わるようにキッチンに向かう。準備ができるまでゆっくりしててくださいと声をかければ、少し遠い声でお礼と返事が聞こえた。
土鍋を前に小さく息を吐く。
初対面の人と話すのはやっぱり緊張するなあ。
肩の力を少し抜きながら、彼らの持ってきてくれた袋を覗けば、鍋の食材だけでもかなり量があるようだった。
男性ばかりだから、これくらいの量で普通なのだろうか。すぐに使うものを袋から出していると、ふと、誰かが近づいてくる気配を感じて顔を上げる。
「俺、手伝いますよ」
「え〜っと、センラくん、でしたよね?ありがとうございます。でも、ゆっくりしてても良いですよ?」
「いえいえ、お邪魔させてもろてるんで。お腹も空いたし、二人でぱぱっと終わらせましょ」
なんてスマートな対応。押し付けがましくもなく、気を使っていることをこちらに感じさせないような言葉。
そう言われてしまっては、了承する他ない。
「ありがとうございます。じゃあお願いします」
「こちらこそ。あ、Aちゃんでええですか?」
「呼びやすい呼び方でいいですよ」
パッと見の印象よりもだいぶ雰囲気の柔らかい人だ。声のせいなのか、坂田くん(弟)の使う関西弁よりも京都色の強いはんなりとした話し方。
それが更に人当たりの良さを際立たせているようで、失礼な話だが、うらたさんや志麻さんと一緒にやれと言われるよりは気楽な気持ちになった。
「うわ、坂田の家、ちゃんと鍋とか包丁とかあるんや。ないと思てた…」
「私が買い揃えました…流石に私もあまり料理する方ではないとは言え、全くしない訳じゃないですから」
「あ、そうなんや。坂田全然料理せん言うてたからなあ。じゃあ、俺野菜切りましょか」
「センラくん料理男子なんですね」
「いや、言うてそんな上手やないですよ」
分担をぱぱっと割り振れる辺り、料理に慣れてるか要領が良いかのどちらかだと思うけれど。
包丁とまな板を渡せば、慣れたように野菜を洗ってざく切りにしていくセンラくん。
「あ、そう言えば、お酒も買うて来てるんですけど、Aちゃん飲めます?」
「わ、ありがとうございます!飲めます飲めます〜!センラくんお酒強いタイプですか?」
「どうやろ〜少なくとも坂田よりは強いですね」
Aちゃんも強そうやな〜と笑うセンラくんとの会話は思ったより弾んで、時間があっという間に感じるくらいには楽しかった。
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作者名:こま | 作成日時:2021年10月31日 14時