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ありがとうございました、と終わりの挨拶をしてから、一人で廊下を歩く。授業が終わる少し前に解散したので物静かな階段に、どこか不気味な雰囲気を感じた。
ササッと着替えて自分の教室に帰る。その頃には既にチャイムが鳴っていたので、廊下は購買に行く生徒たちで溢れかえっていた。
｢紬｣
名前を呼ばれて振り返ると、月島と山口がいた。体育おつかれさまと伝えたら、月島が手に持っているものを差し出してくる。紬の弁当だ。困惑しながらも受け取って月島を見上げると、視線に気づいた月島が一緒に食べるんでしょ、と長い脚を進める。
｢イツメンみたいになってるなぁ｣
｢紬さんに友達ができない理由、俺らのせいでもあるかもね｣
月島を追いかけながら山口と話す。たしかに休み時間の度に二人と話していると、話しかけたくても無理かもしれない。なにしろ百八十センチと百九十センチの壁なのだ。
｢そうかもしれないけど、それならべつにいいや｣
小さく笑って紬が言う。ぐるりと月島が振り返ったかと思えば、はやくして、と急かしてきた。どうしてこの男はこんなに急いでいるのだろうか。山口と顔を見合せて足を早めた。
｢つきしまも、山口くんも、速い！｣
いつもの場所に座り込んで紬はゼェハァと息を整える。女子高校生の平均身長以下の紬と、高校生の平均身長以上の現役バレー部員二人である。息切れしてしまうのも無理はない。
｢キミさぁ、たしか鍛えてんだよね？｣
｢それとこれとは、違う｣
ベクトルが違うんだって！ そう苦言を呈す紬に、山口は水を手渡した。
｢ん、ありがとう山口くん。落ち着いた｣
｢よかった……その水あげるよ。俺もう一つあるし｣
｢いいの？｣
無理させちゃったお詫びってことで、と座る山口に、どうして女子たちは月島の方に行ってしまうんだろうと疑問に感じた。そりゃ月島も優しい時はあるが、山口の方が気遣いができる男なのだ。山口の逆の隣に座った黄色をちらりと見て、ため息をつく。全ての元凶である。
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作者名：とっかり | 作成日時：2021年11月28日 6時
