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｢紬さん、睡眠不足？ 大丈夫？｣
月島に話しかけに来た山口が、紬に心配の声をかける。
｢大丈夫だよ。覚えることいっぱいで忙しいけど、楽しいし｣
｢……そんなんになるまでするとか、ただのマゾでしょ｣
ぐいと伸びをする紬を見て、聞き役に徹していた月島がボソリと言った。
｢さっき笑ったこと根に持ってる？｣
｢ツッキーは紬さんのこと心配してるんだよ｣
図星を当てられてムッとした月島に謝る山口。紬は月島に目をやって不器用だなぁと苦笑する。バチッと目が合ったかと思えば、嫌らしい笑みを貼り付けて突っついてきた。
｢入学早々授業中に居眠りとか図太いねキミ。しかもあの数学担当の人、厳しいって有名じゃん｣
｢でも紬さんへの対応は柔らかかったよね｣
なにかあったの？ と山口が訊いてくる。話すのも初めてで、厳しいという噂すら耳にしたことがない紬は、首を横に振った。
｢全く見に覚えない。数学得意じゃないからお気に入りになるのは助かるけど｣
｢……本音は？｣
｢苦手だから関わりたくないし当てないでほしい、かな｣
思っていたことを言葉にしてしまうとつい顔を顰めてしまい、両手で覆い隠す。
去年の冬、進路の話になった時に、中学の進学率を気にして無理に白鳥沢を受けさせようとしてきた担任のせいで、先生という存在自体が苦手になってしまったのだ。塾にも行っていない生徒に難関高校を勧めるなんて、おかしいと思わなかったのだろうか。
｢キミのその先生嫌いも相変わらずだね｣
｢嫌いってわけじゃないんだけど、すぐ二人一組組ませようとしてきたり、すぐ周りの人と相談させようとしてくるじゃん｣
人差し指と中指の隙間から目を覗かせた紬がぼやく。交流関係は狭く深くがいい紬にとって、そういう先生は地雷なのだ。
｢キミ、友達いな……あぁ！ そういえばいないんだったね、ご苦労さま｣
｢わざとらしいなぁツッキー｣
月島の煽りに黙った紬を見て、苦笑いをした山口が口を開く。
｢紬さん、誰か一人は話せる人作った方がいいんじゃない？ 俺もツッキーも部活で忙しくなるし｣
｢私、話そうと思ったら話せるんだよ。山口くんとも普通に話せてるでしょ｣
ただ、と口ごもる紬に不思議そうな顔をする。そんな二人の様子に嘆息した月島が、頬杖をついてスマートフォンを触り始めた。
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作者名：とっかり | 作成日時：2021年11月28日 6時
