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二
この世界には五月病という言葉もあるほどで。
新生活が段々と落ち着いてくる四月の中旬頃は色々と気が抜けやすい。覚えなければならないものが多い高校生なんて毎日が多忙であり、ここ数日アルバイトに力を入れすぎたせいか、紬は授業中に寝てしまっていた。バイト先が飲食店なので、メニューや値段を覚えたり、作り方を覚えたりと大変だったのだ。ここ数日まともな睡眠時間を確保できていない。
｢……紬。問二答えてみろ｣
まだ耳に馴染んでいない声で脳を呼び起こすと、腕を組んでいる男性と目が合った。たしか、数学の先生だったと思う。
一瞬で目が冴えた紬は焦って黒板を見る。が、お世辞にも綺麗とは言えない文字を目にして思考回路が止まってしまった。
｢……教科書十二ページ｣
そんな紬を見かねて、隣の席の月島が呆れた顔で呟く。紬はペラペラと教科書を捲り問題を探した。高校の序盤の授業は中学の時の復習がほとんどなので、真面目に勉学に励んでいた学生には少し考えたら解けるような問題ばかりである。
｢ルート八十三です｣
｢正解だ。疲れてるのは分かるが授業中に寝るなよ｣
先生の注意を受け流し、眉間をグリグリと抑える。礼を言おうと隣の席の月島を見ると、丁度目が合った。ばーか、と綺麗な形をした口が動く。
｢んふ、ありがとうつきしま｣
不思議と様になっている言動を見て口元が綻びてしまう。隣の彼の機嫌はあまり損ねたくないので、紬は袖で上がっている口角を隠す。右隣から注がれる熱い視線を無視して、なんとか板書をノートに写し終えたところでチャイムが鳴った。
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作者名：とっかり | 作成日時：2021年11月28日 6時
