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｢山口のことパシらないでくれる？｣
｢おつかいだよ。お金渡すしパシリではないでしょ｣
｢……小学生じゃないんだから｣
はぁ、と月島がため息をつき、数秒間二人の視線が交わる。だんだんと苛立ちより気まずさが勝ってきたのか、月島は手元に視線を落とした。
｢ツッキー、紬さん！ なんでこんなところにいるの！？｣
沈黙を破るかのように山口がペットボトルを片手に走ってくる。流石運動部といったところか息は上がっていなかったが、着慣れない服で走るのは苦しかったのか学ランの前ボタンが全開になっていた。
｢山口くんお水ありがとう｣
｢百円だし返してくれなくても良かったのに｣
｢つきしまに怒られちゃうからさ｣
紬が財布から百円玉を取り出して山口に渡す。彼は苦笑いで水と交換してから、月島の隣に腰を下ろした。
｢……三人揃うのなんか久しぶりだね？｣
｢数日前まで毎日顔みてたからそう思うんじゃない｣
山口がこぼした言葉に、月島がスマートフォンを弄りながらも返す。たしかに、実際は二週間ほどしか会っていなかっただけなのにどこか久しく感じる。紬の場合、長期休みは用事がない限り外に出ないので余計そう思うのだろう。
｢なかなか学校外で会わないもんねぇ｣
｢俺とツッキーは会ってるけどね！｣
胸を張って主張をする月島大好きっ子の姿に、紬は自然と頬が上がるのを感じた。
｢山口くんは相変わらずだ。安心した｣
｢俺はって、ツッキーは？｣
なんかあったの？ と山口は首を傾げる。本人の前で言うのは少し感じ悪くなってしまうかなという考えが過ぎったが、横目に見た月島が無表情だったので紬は口を開いた。
｢山口くんにお水頼んだのでつきしまに怒られちゃってさ。パシんないでくれる？ って｣
声色だけ真似をして紬が言うと、山口は少し考えた後あ、と声を上げた。どうやら思い当たる節があるようだ。
｢昨日の昼休み、俺のところにツッキーの連絡先訊きに来た子がいてね｣
｢あぁ、そういう……｣
紬が苦虫を噛み潰したような表情をする。
月島の連絡先を山口に訊ねる女子は中学の頃にも多数いた。訊かれる度に山口は断っていた覚えがあるが、断られた腹いせに山口のことを悪く言う女子もごく一部だがいたのだ。そんな女子たちは月島にゴミを見るような目で見られるのだが。
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作者名：とっかり | 作成日時：2021年11月28日 6時
