無理すんなよ、

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伊野尾サイド





最寄りの駅へ向かう。




自転車を漕ぐおれに刺さる雪と、容赦なく吹く風に、顔面が凍ってるような気になる。




かじかむ手でICカードを持ち改札を抜けて。




昨日ストックホルムから帰ったばかりのおれは、長時間のフライトによる疲れと時差ボケ。




朝から止まらぬあくびを噛み殺した。




といっても、今日は最初の授業が遅め、今はお昼。




肩やフードにかかった雪をホームで払って電車に乗ると、乗り込んだドアの近くにスマホを片手に立っている、一人の男の子。




背は俺より10cmくらい低めで、男のおれでも二度見してしまうほど、綺麗な顔をしている。




だけど、今のご時世そう長く人を見つめていちゃ危ないヤツだ。




反対のドア近くに立って手すりに寄りかかり、再度スマホに視線を移した。



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スマホの画面を見るおれの視界の端で、なにやらあわあわしている例の男の子に気づき、顔を上げる。




顔の前で手を合わせ、しきりに謝っているみたい。




例えるなら、トラの前に置かれてしまったチワワのよう。




ペコペコと動く姿が小動物のように可愛くて、つい頬を緩める。




彼は、そんなおれの事なんて露知らず、依然ガイドマップのようなものを指差した、ツーリストと思われる外国人に話しかけられている。




俺は、彼に近寄った。




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山田サイド






大学へ向かう僕は、電車の中でInst○gramをチェック。




雑貨屋さんのいい匂いがしてきそうなキャンドル。


お気に入りのかわいい洋服ブランドによる新作。


好きな漫画家さんのが描いたイラスト。




そして、普段あんまり投稿しない、数少ない友達である侑李の投稿を見てほっこり。




お姉さんかな？素っ気ないコメントだが、添えられた写真の中、笑顔のお姉さんと写る侑李も、照れくさそうな笑顔だった。




そんな時、


トントン




肩を叩かれ、驚きの余り身を震わせる。




『× × × ×、× × × × × ×』




全く言葉が読めない…だいたい日本語なのかな、とにかく僕は力になれそうにない。




僕は顔の前で手を合わせ、ひたすら謝る。




そんな時、外国人の方が急に後ろを向いて、男の人と話し始めた。





……走る電車の窓から見える景色は、どんどん変わって行く。




雪は止んでいた。

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