♯ ページ17
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手術室から出てきたこっちゃんは頭に包帯を巻かれていた。
『ことは……?』
眠っているかのように穏やかな顔。返事はなかった。東海オンエアの誰よりも朝が弱い私やけど、こっちゃんはもっと弱かった。今日の朝寝ぼけながら見た寝顔とほぼ同じで、本当に亡くなったなんて思えない。
『琴葉……』
おとんが手を握っても反応はない。
『琴葉……、目ぇ覚ましてくれや……!!!』
遺体に縋っておとんは泣き叫んだ。
その日の夜、病院には知らせを受けた和歌山の母方の祖父母、高槻に住む父方の祖父母、愛知の叔母が駆けつけた。5人とも遺体と対面して静かに涙を流す。
本当は私も悲しくてつらくて、こっちゃんと一緒に同じ場所へ行きたいと願ってた。きょうだいの中でも特に一緒にいて、心のどこかで繋がり合っている特別な存在が突然いなくなる。
起きて、と体を揺さぶったら目を覚ましそうなのに……
もう一生起きてはくれない。声は聞けない。胸が押しつぶされそうやった。
『Aちゃん』
その日は叔母さんと一緒に家へ帰った。兄は泣きながら眠った。流星は高槻の祖父母が面倒を見てくれる。私はなかなか寝付けなくて、叔母さんの隣で体育座りをして空を眺めていた。
『ん?』
『Aちゃん、泣いてええんやで?』
『……泣かへんよ』
うちが泣いたらこっちゃんも泣いちゃうもん。
叔母さんは溜め込んだらあかんよ、と抱きしめてくれた。
でも今思えば泣けなくなるほどショックだった。頭が受け入れを拒否している。泣いたら全てを受け入れざるを得なくなるから。
それからの1週間は慌ただしく、あっという間に過ぎていった。直後の記憶はあるものの、葬式を含めた1週間の記憶はポッカリと穴が空いている。どんな風に別れたのか、全く覚えていない。
『Aちゃんは強い』
親戚や大人達にそう言われた。
ううん、本当の私は強くないよ。ずっとずっと、私もこっちゃんの所に行きたいって思ってた。岡崎に引っ越してからも友達を作ろうと思えなかった。
何よりも遊ぶのが好きだったのに、体育を含めた授業は頑張っても、1人で大人しく勉強しているような子に変貌した。
これも今だから言える。
私は知らず知らずのうちにSOSを出していて、どん底に沈んだ自分を助けてくれる人を求めていた。
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みゆし(プロフ) - 最近読ませて頂いてます!パスコードを教えて欲しいです🙇♀️これからも素敵なお話楽しみにしてます (2月11日 11時) (レス) @page40 id: b2f1dffa53 (このIDを非表示/違反報告)
rioyamakawa(プロフ) - この小説の更新待っています! (2019年12月14日 1時) (レス) id: faed70be53 (このIDを非表示/違反報告)
あおやなぎ(プロフ) - rioyamakawaさん» ありがとうございます(;;) これからも頑張ります〜! (2019年7月23日 10時) (レス) id: c05e59e944 (このIDを非表示/違反報告)
rioyamakawa(プロフ) - この小説占ツクの中で1番好きです!!これからも更新楽しみにしています!!! (2019年7月17日 11時) (レス) id: faed70be53 (このIDを非表示/違反報告)
あおやなぎ(プロフ) - たむさん» ありがとうございます(;;) これからも頑張ります!!! (2019年6月30日 23時) (レス) id: c05e59e944 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:あおやなぎ | 作成日時:2019年6月27日 22時