幸せ(※) ページ13
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でもいつになってもAから連絡が来ることはない。
「どうしたんだろう……」
「分からん。Aのことだげえ、やっぱり家で伝えたいって思ってんじゃねえの?」
気長に待っとけ、と肩を叩いたとしみつはそのままキッチンへ行った。
そうだな、そうだよな。Aはサプライズを考えているんだ。ザワつく胸をどうにかして抑える。
窓に激しくうちつける雨。傘の意味を成さないような振り方をしている。今年は冷夏のようで雨が長く続いている。やっぱり1人で行かせなければ良かったなあ、とぼんやりと考えていた。
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「ただいまー」
今日は早めに撮影が終わった。雨は止んだものの、暗くなった空には厚い雲が広がる。てつやはキャバに行くらしく、晩ご飯じゃんけんができないから俺は寄り道もせず家に帰ってきた。
「Aー?」
あの後も連絡は一切なかった。車はあったから帰ってきているはずなんだけど……、人気を感じず部屋中が静寂をまとう。
リビングの大きな窓を開けてみれば、Aがぼんやりと遠くを見つめながら温かい飲み物を飲んでいた。
「A?」
「あ、亮くん……」
振り返った彼女は目が腫れていた。
「どうしたの?」
「……」
優しく聞いてみれば大きな目から涙が溢れる。力なく落としたコップからは黄金色の液体が流れる。
「どうしたの? 何かあったの?」
「守れんかった……。赤ちゃんいないって……」
やるせないとはこの事か。何も言えなかった。ごめんなさい、と泣きじゃくるAを俺はただ抱きしめることしかできなかった。
本当に無力だ。気の利いた言葉をかけられない。俺も悲しいけど、Aのやり場のない心と体の痛みには適わない。
「謝らんで。Aも赤ちゃんも何にも悪くない」
「でも……」
「……俺はこの1週間、Aと赤ちゃんのおかげで幸せな時間を過ごせたよ」
心の傷が癒える訳じゃない。でもこの気持ちに嘘はない。この期間はかけがえのない幸せだった。再び大粒の涙を流すA。弱々しく回った腕は絶対に離すまい。
次頑張ろう、なんて酷く悲しむAを見れば俺は軽々しく言えない。でもいつか俺らの所へやって来てくれた命をこの腕で抱けるとすれば、空へ飛んで行ったこの子の分まで沢山の愛情を注いで育てていきたい。
悲しみの中、俺は強く心に決めた。
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みゆし(プロフ) - 最近読ませて頂いてます!パスコードを教えて欲しいです🙇♀️これからも素敵なお話楽しみにしてます (2月11日 11時) (レス) @page40 id: b2f1dffa53 (このIDを非表示/違反報告)
rioyamakawa(プロフ) - この小説の更新待っています! (2019年12月14日 1時) (レス) id: faed70be53 (このIDを非表示/違反報告)
あおやなぎ(プロフ) - rioyamakawaさん» ありがとうございます(;;) これからも頑張ります〜! (2019年7月23日 10時) (レス) id: c05e59e944 (このIDを非表示/違反報告)
rioyamakawa(プロフ) - この小説占ツクの中で1番好きです!!これからも更新楽しみにしています!!! (2019年7月17日 11時) (レス) id: faed70be53 (このIDを非表示/違反報告)
あおやなぎ(プロフ) - たむさん» ありがとうございます(;;) これからも頑張ります!!! (2019年6月30日 23時) (レス) id: c05e59e944 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:あおやなぎ | 作成日時:2019年6月27日 22時