君は今この空を見ているか (ページ8)

今日:18 hit、昨日:0 hit、合計:141,971 hit

♯ ページ8

.

4日目の撮影が終わってホテルへ戻ってきた。

今日は早い時間に切り上げた。冬なのもあって、パリの空は赤く染まりつつある。長いロケともなるとメンバーに会えないから恋しくて仕方がない。

ポケットWi-Fiを繋いでYouTubeを開くと、今日は月曜日だから東海オンエアの動画はサブだけが上がっている。

時差は7時間。こっちは17時だからあっちは24時かな。……会いたいなあ。というか、今日は会わなきゃいけないと思う。

起きてるかな。明日も仕事やろうし寝てるかも。でも起きていますようにと願いを込めてLINEで目的のアカウントを探し、ビデオ通話を繋ぐ。

あっちは日付が変わって夜も深まってきた頃だ。ワンコールの後、もしもし、と焦ったような弾んだ声が耳に届いた。

「もしもし、焦りすぎ！」

「焦るでしょ！寝ようとしてたらAから電話かかってきたんだよ！？」

「やっぱり寝る前やったのね。切るわ」

「ばか！切らんで！！」

切るはずなんてないのに。亮のセットしていない前髪が額にかかる。会いたい。生身の亮に会いたい。

「で、どうしたの？」

忘れちゃったかな。そっちは日付が変わって今日は特別な日になったって。

「亮、2年ありがとう」

画面越しに彼の瞳が揺れた。
2年前のこの日、私達は長年の片想いを経て付き合い始めた。そんな大切な日を、今年は一緒に過ごせない。

フランス行きを告げた日は亮の口数が少なく、時折寂しそうにiPhoneを眺めていたのに気づいていた。自惚れかもしれないけど、彼なりに何かを計画、準備してくれていたかもしれない。

「こちらこそ、ありがとう……」

亮は画面に背を向けて、腕で顔を隠した。

「亮のこと、好きになれてほんまに良かった。亮と一緒におると何でも楽しくて明るくなれる。……これからも一緒におってね！」

「やめてよ……。泣くじゃん……」

当たり前じゃん。亮は力強くそう言った。そばにいれないのがもどかしい。

眉を下げて今にも泣きそうなのに笑顔であろうとする亮を、抱きしめられないし頭も撫でられない。眺めることしかできない自分がもどかしい。

「帰ってくるの、木曜だったよね？」

「そうだよ」

帰国するのは日本時間の木曜日。この日の夜に、亮が東海オンエアの仕事で上京してくることになっている。

「迎え、行くから」

さあ、私も頑張るぞ。