君は今この空を見ているか (ページ49)

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男は意外に未練がましいから、時々元カノとの思い出を振り返って急に会いたくなる。頭を撫でた時の嬉しそうな顔、いたずらした時の怒った顔、キスした時の照れた顔に身体を繋げた時の蕩けた顔……

1つひとつが思い出のアルバムとして心の棚で眠っている。

でも女は時として残酷で卑怯だ。機械的に思い出を上塗りしていく。別れた直後は泣きまくるくせに、気が済めばあっさりと次の恋を見つける。友達の中には初恋の相手すら忘れている子がいた。

” 男の恋愛はフォルダ型、女の恋愛は上書き保存型 ”

Aちゃんも淡白なのだろうか。……俺の告白を信じて待っててくれているだろうか。

「Aちゃん、起きて」

「んんっ？ ……あれ？」

最寄りが近くなり、そっと耳打ちをする。

「昨日お疲れだったの？」

「いや……、亮くんがいい匂いやったから眠っちゃってたみたい」

はあ……。
ここで『亮くん』はずるいって……
Aちゃんに名前を呼ばれた経験が少ないから、親や他の友達から呼ばれ慣れているはずなのに簡単にドキドキしてしまう。

「あんまり他の男にそんなこと言ったらいかんよ？」

「何で？」

俺みたいに勘違いする男が現れるから。首を傾げる仕草にもキュンと胸が跳ねるくらい、Aちゃんに夢中になってしまうから。

「……勘違い、されるよ」

大人になりきれない俺は苦し紛れの理由でその場をしのいだ。

もしも望みがあるのなら、俺は今すぐにでもAちゃんの彼氏になりたい。彼氏になって沢山抱き締めてキスをして、深く深く愛し合いたい。色んな所へ出かけて思い出を共有して、絶対に忘れられないようにしたい。

……いや、ずっとそばにいられるようにするんだ。

「はあ……」

久々の純粋な恋だ。こんな相手一生現れないと思えるほどの、本気の恋だ。

「ここで降りるよ」

「あ、うん！」

心から好きになると俺は臆病になるらしい。少しでも激しく扱うと脆く崩れてしまいそうで触れるのが怖い。でも触りたく、壊したくもなる。そんなジレンマに悩まされる自分が珍しくて戸惑っている。

Aちゃんの手を引き、バスから降りる。ここから少し歩けば彼女がずっと行きたかったらしい、カジュアルで美味しいと噂のイタリア料理の店がある。

「今日は楽しもうね？」

「うん！」