君は今この空を見ているか (ページ36)

今日:22 hit、昨日:0 hit、合計:141,975 hit

♯ ページ36

.

遼太くんことプロラグビー選手は用事があって断られたものの、Aちゃんは来てくれることになってその日が待ち遠しかった。部活もすげえ頑張った。勉強もぼちぼちやってたと思う。

そして当日。

『初めまして！』

マリンボーダーのワンピースにカンカン帽子を被り、とびきり可愛いAちゃんがいた。

裸眼なのかコンタクトなのかは分からない。でも制服じゃない、メガネじゃないのが新鮮で、胸がギュッと締まって直視できなかった。

『あなたがAちゃん？』

『はい！福尾くんと仲良くさせてもらってます、坂元Aです』

とても丁寧で自分よりも随分大人な雰囲気がある。身長は俺の方が高いのにね。……こんなことを思うから子供なんだろうな。2人は本物の母娘のように話す。

『……福尾くん』

『んあ……？』

『今日はよろしくお願いします！』

.

今思えばこの時に明らかな恋心を抱いた。それまで漠然としていた想いがはっきりと型を作った。

「中1の時は私だけやってんけど、中2からは俊光も同じクラスになったげえ3人でバーベキューしたよね」

「やったなあ！亮の家がバカ広いから花火やり放題」

「俊光が数学苦手すぎて2人でつきっきりで宿題教えたりもしたなあ……」

「それは思い出さんでよくねえか？」

俊光とAが思い出話に花を咲かせる中、俺は感慨に耽った。

あれから10年以上が経つ。今もこうやって2人と仲良くできるのが嬉しいし楽しい。

Aのいなかった高校時代と大学2年の1月までは女関係でクソみたいに荒れた。周りからやりすぎじゃないか、と忠告されるくらいには荒廃した。もしも再会できていなかったら廃れた人生を送っていたかもしれない。

「じゃあ結婚決まった時は亮くんのお母さん、さぞお喜びになったんじゃない？」

虫さんの言う通り、結婚の挨拶に実家に帰った時、母親が涙を浮かべて喜んでくれた。父親も妹もやっと落ち着いたんだ、と安心してくれた。

「次は入籍かあ……」

「もうすぐ家族になるんだよ、俺ら」

「2人が夫婦ねえ……。良かったねえ……」

そう言って小さな背中が後ろを向く。5月にAと俺らは東海オンエアの2人目、3人目の既婚者になる。

皆をもどかしさの渦に巻き込んだ。でもこれからは家族として、皆を安心させたいし幸せになりたい。