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室内に入って真っ先に目につくのは、中央に聳える、大人10人くらいが両手を広げてようやく囲める程の太さのまるで塔のような本棚。横が均一に揃って積み重なるのではなく、大きさの異なる空箱をパズルのように隙間なく積み上げたような態で、本の高さだけがきれいに揃い収まって背表紙の柄や絵はどこもかしこもまとまりがなくむしろ渾然としている。ところどころに本が入っていない箱があり、それを中心として、動物の爪で引っ掻いたような、あるいは歪な平行四辺形のようなかたちで木材の表面が広がっていた。壁面もやはり本で埋め尽くされていて、塔にあるような歪な形の木材の表面は無く空箱のみが点在しており、そこから淡いオレンジ色の光が差している。レール付きの梯子が見えるところで塔に2本、壁に5本。吹き抜けの手すりからはアスレチックのような太めのロープが無作為に伸びていて塔に繋がっている。さらに、塔の真横から対称に伸びた階段が緩やかにカーブを描きながら吹き抜けの2階のような場所へ繋がっていた。
固い絨毯を誰かが踏み鳴らしたと思ったら、両腕にありったけの本を担いだ銀髪の少年が鈍く光る黒の手すりを滑り台に、2階からするすると滑り降りてきた。軽やかに着地するまでの一連の動作の危なげのなさに舌を巻きつつトンパさんと2人で凝視したものの、少年は視線ひとつさえよこさずに老人の元へ駆け寄る。テーブルの上に抱えてきた本を遠慮なく積み上げると、風圧とともにほんの僅かなカビ臭さが周辺に舞い上がった。
「ぉおはやいなぁ。もうこれだけ集めたのかい」
「目につくところなら案外楽勝だったよ」
静かに笑みを湛えつつ積みきった本の山の頂をポンと叩き、少年はこちらへ振り返る。少し白けたような銀髪がやはり目を引くが、しっかりと向き合うならば目を奪われるのはあどけなさをありったけ詰めてはめ込んだような大きな瞳だった。しなやかに曲線を描きつつ眦をきゅっと絞った目縁は、力の入りようによって印象が加減されるのだろう。
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作者名：緑那 | 作成日時：2019年10月23日 19時
