紳士に徹して １ ページ9
「啓太さん、すみませんでした。これお借りします」
ユノの車の助手席にバスタオルを敷いて乗り込むA。
ユノがドアを閉め、啓太を振り返る。
「後で揉める事になると思うよ」
「・・そうですね。でも僕は、彼女の思うようにさせてあげたいです」
「ユノ君、君はイル君とAちゃんの事は？」
「理解してます」
「・・・」
啓太は真っ直ぐなユノの目を黙ってみつめた。
「送り狼だけにはなるなよ」
握り拳をユノの胸に軽く当てる啓太。
「わかってます」
ユノは微笑むと頭を下げ、車へと乗り込んだ。
去って行く車のテールランプを見送る啓太。
「Aちゃんも頑固だからなぁ・・」
━ナビに入力された住所に向けて進むユノの車。
「大丈夫？寒くない？」
「はい、大丈夫です。・・ごめんなさい、ユノさん、本当はこんな事して貰ったらいけないのに」
「気にしないで」
正面を向いたままのユノが微笑む。
「・・だけど、すれ違わなくて良かったよ」
「え？ あ、そういえばどうしてあそこにいたんですか？」
「お店に行くところだったんだ。ギプスも外れたから報告に・・」
「あ！ ホントだ！すみません気づかなくて・・。もう大丈夫なんですか？」
信号が赤になり車を停止させ、ユノが振り向いて微笑んだ。
「良かったぁ〜」
嬉しそうな顔を見せたAに、ユノの心臓がドクンと鳴った。
気持ちを隠すように前を向くユノ。
「やっと、笑ったね」
「え？・・あ、はい」
再び動き出す車。
「さっきは・・ありがとうございました。さっき泣いたから、少し楽になれました」
微笑むユノ。
「イルさんの事、すごく・・・好きなんだね」
「え？」
「知られたくないのは、心配かけるからじゃなくて、イルさんが自分のせいだと自分を責める
事になるからでしょ？そうさせたくなくて、知らせたくないって思うんでしょ？」
「！」
驚いたAがユノの横顔をみつめた。
「なんで・・・」
Aの表情が歪み、タオルで顔を覆った。
「！ あ、ごめん、なんか・・僕」
慌てるユノ。
「・・・っ」
「ごめん、えっと・・」
「・・・っっくしゅん！」
「・・・」
「・・っくしゅん」
「あはっ」
ユノが笑いだした。
「あはははは」
Aは顔が熱くなった。
「ごめんなさい、私、いつも、こんなで・・・」
泣きそうになったところで、くしゃみが出てくれてAはその涙を隠すことが出来た。
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作者名：カホル | 作成日時：2020年6月16日 20時
