理不尽 １ ページ6
イルからの電話だった。
「もしもし？A？大丈夫？」
何も言わないうちに畳みかけて来るイル。
「ん、大丈夫、心配しないで」
声を聞いて知らず知らずのうちに涙が滲んでくる。
「送るから待って、今どこ？」
「ホントに大丈夫だから・・・」
「？ 鼻声？」
「ん・・風邪かな？うつしたくないし、1人で帰れるから」
「ホントに？」
「あ、バス来たから、切るね。おやすみなさい」
なかなかイルが納得しなくて困りそうな所へ、ちょうどバスが来てホッとしたA。
目を拭ってバスに乗り込んだ。
こんなにも心配してくれる人を、何故、避けたのだろう・・・
明日はちゃんとしよう・・・
━翌日、いつもの様にバス停から店へと向かう。
小雨が降り出し足早に裏口への角を曲がると、裏口を過ぎた所にあるイルの家の入口の前に
イルが立っていた。
Aを見ると微笑むイル。
「！ お、はようございます。お出かけですか？」
「待ってた」
「え？ 誰・・」
言いかけたところで手を引っぱられ、イルの家のドアの中に入った。
ドアを閉め鍵をかけたイルが抱きしめる。
「！」
「ごめん、忙しくて気を使えなくて」
Aの肩に顔をうずめるイルの声が、耳元で聞こえる。
Aもイルの体に手を回した。
「大丈夫だから・・心配しないで」
「体調は？平気？」
顔を上げイルがみつめる。
「もう大丈夫」
Aが微笑んで見せると、イルの指が頬に触れ口びるを寄せてきた。
「・・ダメ」
そう言って顔を背けるAを壁に押し付けて逃げ場をなくし口びるを奪うイル。
「んっ・・」
抵抗するAの手が、甘く熱いキスにほだされて行く・・・
思う存分口びるを味わったイルが離れると微笑んだ。
「もうっ、店長さん、お仕事行きますよ」
Aはドアの鍵を開け外の様子を伺うと急いで店の入り口へと向かった。
・
・
・
仕事を終えて帰路につく頃には、本格的に雨が降り薄暗さを増していた。
公園の入り口を通り過ぎようとした時、イキナリ後ろから腕を引っぱられた。
「きゃぁっ」
強く引っ張られて勢いよく離されたので、濡れた地面へと転げた。
視線の先に見える男の足。
見上げるとその後ろに立つ2人の女性。
昨日の2人組だった。
「何するんですか！」
「・・・ホーント、嫌な女」
そう言ったのは、可愛らしい方の女だった。
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作者名：カホル | 作成日時：2020年6月16日 20時
