突然の・・・ ページ30
「日頃より、当店を御贔屓にしてくださり本当にありがとうございます」
そう言ったイルは、客席の各方面に見える様に向き深々とお辞儀をした。
「おかげ様で今日、１０周年という日を迎える事が出来ました。ありがとうございます」
客席から拍手が沸いた。
「ここで、僕からもう１つ、皆様にお伝えしたい事があります」
「？」
店内にいる誰もが、イルが何を言うのかと注目している。
Aも予定にないイルの行動に首を傾げていると、イルが振り返った。
「僕は・・、彼女と結婚します」
「！」「！」「！」「！」「!！」
店内が一瞬静まり返った・・・。
誰もが驚いた顔をしている。
・・・やがて、あちこちから拍手と悲鳴の様な歓声が上がった。
「きゃあ〜///」
「ひゅ〜」
「おめでとう！」
緊張した顔をしていたイルも笑顔になった。
「ありがとうございます！」
イルがお辞儀をすると、2人組の方に向き直った。
「だから、もうこれ以上、彼女に関わらないでください。彼女は、僕の大切な人なんです。
もしもまた関わるような事があるなら、ここには来て頂きたくないです」
そう言って、2人に向かい深々と頭を下げた。
「・・・・・」
目の前で頭を下げるイルと、店中から集まる視線。
何も言い返す事が出来ずに、悔しそうに立ち上がった女。
「な、によ。あんたなんてっ！！」
コーヒーカップを手に取ると、まだ湯気の立つコーヒーをAへとかけた。
「！！」
イルの発言に茫然としていたAの前に、イルが腕を伸ばして庇おうとした。
「っ！・・」
イルの手に守られ、Aはコーヒーを浴びる事は無かった。
「っ！イル！」
慌ててイルの手を取って見るA。
「早く冷やさないと！」
「大丈夫だよ、そんなに熱くなかったし」
幸い冷め始めていたコーヒー、長袖シャツを着ていたこともあり手の甲に少し浴びただけで済んだ。
イルとAのやり取りを目の当たりにした女が、おもむろにケーキを手にした。
「！」
咄嗟にイルがAを両腕で抱きしめ隠す。
「ひゅ〜///」
歓声が上がる。
悔しそうな女は、手にしたケーキを床に投げつけ、店を出ようとドアを開けた。
「！」
・・・と、大きな物体にぶつかり尻もちをついた。
見上げると、そこに立っていたのは啓太だった。
「もう！なんなのよ！」
赤い口紅の女に手を取られると逃げる様に去って行った。
「？ コーヒーだけ飲みに来たんだけど」
訳がわからない啓太だった。
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作者名：カホル | 作成日時：2020年6月16日 20時
