すれ違い ページ27
イルが忙しかった理由が、もう1つあった。
お店がオープンしてから１０周年、その記念イベントの準備をしていたからだ。
明日が、その日。
「お疲れ様、いよいよだね」
お風呂を上がって来たAが、ソファーで寛ぐイルに声をかける。
「肩、揉んであげる」
そう言うとソファーの後ろに回り、イルの肩を揉む。
「ん〜、効く」
「無理し過ぎないでね」
「うん、ありがと」
肩を揉むAの手に自分の手を重ねるイル。
「もういいよ、こっちおいで」
言われてAはイルの横に座ると、イルの腕がすっぽりと包む。
心地よい空間・・・
Aも甘えるようにイルにもたれる。
「・・・もっと早く教えてくれれば手伝えたのに」
「ん？何を？」
「１０周年の事」
「そうだね、ごめん」
離れてAはイルの顔をみつめた。
「私、まだまだイルの事、知らない事ばかりみたい・・・」
イルが優しくみつめる。
「ちょっと・・・淋しかった」
「ずっと、放っておいてごめん。色々・・・心配かけてごめん。
記念イベントが終わったら、どこかに出かけよう？」
「うん」
嬉しそうに笑ったAの頬にイルが手を伸ばし、顔を近づけて行く。
重なった口びるは、甘く熱くお互いの想いを確かめ合う・・・
「ん・・・」
Aの吐息が漏れ、イルが離れた。
「？」
「明日も朝早いから、もう寝ようか」
「ぁ、・・うん、おやすみなさい」
「おやすみ」
イルはAの額にそっとキスして微笑んだ。
・
・
・
━自分の部屋に戻ったAは、ベッドに座るとぬいぐるみのルーを抱きしめた。
イルの様子がおかしい。
美咲が挨拶に来たあの日以来、キスはしてもそれ以上はしようとしない。
キスして盛り上がった所でイルは離れて行く。
理由がわからずにAは悩んでいた。
一緒に暮らし始めて、飽きられてしまった！？
まさか、美咲が原因！？
それは無いよね？
じゃあ、何故？
わからない不安がまた、考えを悪い方へ悪い方へと導いていくようだった。
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作者名：カホル | 作成日時：2020年6月16日 20時
