足音 ページ3
イルが現れると一段と賑やかになる店内。
真っ直ぐにユノのいる席まで向かう。
「あ、イルさん、こんにちわ」
まず春馬が立ち上がり握手する。
「久しぶりだね、元気だった？」
「はい、イルさんもお元気そうですね」
挨拶を終え、イルがユノの方を向き、ユノが立ち上がる。
「イルさん、こんにちわ」
「よく会いますね、ユノさん」
握手をする２人は、まるで力比べをしているかの様になっている。
「・・・・・」
「まぁまぁ、そのへんで」
春馬が止めて手を離す２人。
店の奥からひやひやと覗くAとは裏腹に、どこか楽しそうな２人だった。
しばらく会話をして注文を取ったイルは厨房へと向かう。
「いらっしゃいませ〜」
そこへ１人の女性客が入って来た。
「お1人様ですか？」
レジにいたスタッフが声をかける。
「・・・あの、店長さん、いらっしゃいますか？」
「え？あ、はい」
その声を聞いたイルが振り返り、女性客もイルに気づいた。
「！」
「イル・・・」
イルが近づいて行く。
その様子をユノも見ていた。
そして、奥から見ているAにも気づいていた。
何かを話していたイルとその女性。
「ごめん、これお願い。それから店長室にコーヒー２つ、お願い」
レジのスタッフに注文の伝票を託し、女性を店長室へ連れて行くイル。
Aは咄嗟に控室に入りドアを閉めた。
背中越し、ドアの向こうを通り過ぎるイルの足音とカツカツと響くヒールの音。
店長室のドアが閉まる音が聞こえるとAは大きく息を吐いた。
汗をかいた体が急速に冷える様な寒気がし、胸がザワザワとした。
そっとドアを開け控室を出る。
店長室の中が気になるが、振り返ることが出来ない。
(まだ仕事残ってるんだから、しっかりしなきゃ)
気落ちを切り替える様に頭を振ると、クラっとした。
「Aさん、これお願いします」
「はい」
厨房から声がかかり、出来上がった料理を運んで行く。
「お待たせしました」
「・・・店員さん、お水ください」
声をかけたのはユノだった。
「あ、はい」
ピッチャーを手に、再びユノの席へと向かいグラスに水を注いだ。
「・・・大丈夫？」
「え？・・何がですか？大丈夫ですよ？」
Aは笑顔を見せると会釈をしてその場を離れた。
後ろ姿をみつめるユノ。
「なんかイルさん、訳あり風だったよね」
春馬が小声で言った。
ユノもそう思っていた・・・
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作者名：カホル | 作成日時：2020年6月16日 20時
