つたえたいきもち ページ8
つたえたいきもち
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…
宏「りょうちゃん、おはよー、よく眠れたかな？」
涼「…。」
ベッドにいるお姫さまはゆっくり目を開けて瞬きをする。
失礼。男の子だもん、お姫さまじゃないよね？
でもそれくらい綺麗でかわいいんだ。
この子のお母さん、つまり俺の妻はこの子を産んですぐこの世を去った。
だから俺はこの子と2人きり。
名前は涼介。まだ6歳。
本当なら今年小学校入学なんだけれど。学校には行けていない。
涼介は1年前に難病を発症した。
それまでは元気に外を走り回るやんちゃな子だったけれど全身の筋力が低下する病気で気管切開が必要な状態になった。
そのせいで声を出すことができない。だから涼介との会話は瞬きなのだ。
「はい」なら1回、「いいえ」なら2回。質問の答えはいつもこの2つ。
よく考えて話しかけないと会話が成立しなくなっちゃう。
…
宏「痰とってすっきりしようね。ごめんね、ちょっと苦しいよ。」
嫌だというような顔をするけれどこれは必要なこと。
自分では痰を出せないから気管切開している所に細いチューブを入れて吸引する。
涼「ごほっごほっ…ごほっごほっ。」
じゅるじゅると痰がチューブに吸い取られていく。
抵抗しようと手を伸ばしてくるけれど俺の手を払いのけるほどの力はない。宙を彷徨うだけ。
涼「んぁ…」
声にならない唸り声が漏れる。吸引は苦しいんだよね。
宏「終わりね。がんばったよー。」
涙目になっている涼介に声をかける。
宏「次は温かいタオルで身体拭いてお着替えするよ。」
Tシャツみたいな首を通すタイプの着替えは難しいから涼介が着ているのは必ず前開きの服。
トイレにも行けないからおむつを履かせている。
1年前、おむつを卒業できたのに逆戻りしちゃったんだよね。
タオルで丁寧に身体を拭きあげる。
本当はお風呂に入れてあげたい。入れることもできなくはないけれどリスクを伴う。
それにいくら小さい身体でも俺だけで家の狭いお風呂に入れるのは難しいのだ。
気管切開してる所に水が入ったら溺死しちゃうからね。
そう思うとゾッとする。
だからお風呂に入れるのは1週間に1回のデイサービスに行くときだけ。
寝た姿勢のまま入れる専用の機会で入浴させてもらっている。
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作者名：りょん。 | 作成日時：2021年5月28日 1時
