白く、霞む ページ34
Aside
テーブルに置いたスマホが
音を立てた。
画面に表示されたのはマネージャーさんの
メッセージだった。
もうすぐお迎えに行きます。
そんな内容だった。
普段なら事務所までは１人で
行くことが多いけど、
マネージャーさんがレコード会社さんとの
顔合わせがうちの近くであるみたいで
ついでに事務所まで送ってくれる話に
なっていた。
気持ちを落ち着かせるために
大きくひとつ息を吐いた。
そして机の上のパンフレットを、
カバンの中に押し込んで玄関の扉を出た。
いい加減覚悟決めろ、自分。
これ以上、隠したって……
家の扉の鍵をかけてすぐに、
頭にある思いがよぎった。
言って、どうなる──？
それで何かが変わるのか？
俺は、自分の重荷を、みんなに背負わそうと
しているだけなんじゃないのか？
昨日のめめの悲痛に満ちた表情が
その答えなんじゃないのか？
分からない。
俺は、一体、どうしたら……
A「つっ──！！」
突然だった。
胸に焼けるような熱い痛みがはしった。
A「いっ、はあっ……！」
息が、できなかった。
立っていられなくなって、
地面に膝をついた。
胸を破るんじゃないかと思うくらいに
心臓が激しく脈打っている。
視界が、白く霞んでいく。
『死』が頭をよぎった。
まだ、あいつらに伝えられていないことが
山ほどある。
やり残したことだって。
けど……
A「ふっ……」
自嘲めいた笑みが浮かんだ。
今死んだら、俺はみんなの傷ついた顔を
見なくて済むのか。
それでも、いいのかもしれない。
自分のことしか考えられていない
馬鹿げた思いが頭を覆った。
マネ「雪村さんっ……！？」
最後に聞こえてきたのは、
マネージャーさんが叫んだ
俺の名前だった。
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作者名：くらげ
| 作成日時：2021年10月17日 6時
