温もり ページ28
目黒side
A「とりあえず座りなよ」
誰もいないベンチに、
Aくんに誘導されるがままに
並んで座った。
A「……寝れなかった？」
穏やかで優しい声だった。
俺を気遣ってくれてるのが分かる。
普通、逆じゃないとダメなのに。
俺がAくんを支えてあげなきゃいけないのに。
弱い俺には、みんなの前でまともに
振舞うことすらできなかった。
目黒「ごめんっ……」
情けなくて、申し訳なくて、
目頭が熱くなった。
A「なんでめめが謝んだよ」
困ったように笑いながら
Aくんは俺の頭を自分の胸に抱き寄せた。
Aくんの香りが、俺の周りの空気を包んだ。
こんなときでも、陽だまりみたいな
Aくんにぴったりの優しい香りだった。
その香りに、ほんのうっすらまとった
俺の偽りの強さは溶かされてしまう。
代わりに出てくるのは、
いまだに現実を受け入れることさえ
できていない、俺の弱い心だった。
頭の上から小さく声が聞こえてきた。
A「……ごめんな。
こんな思いさせて」
違う。
Aくんは、何も悪くない。
一番辛いのはAくんなんだから。
目黒「……Aくん」
A「ん？」
Aくんに体を預けたまま、
気になっていたことを聞いてみた。
目黒「いつから知ってたの……？
病気のこと……」
Aくんは思い出すように少し黙って
それから口を開いた。
A「……ひと月くらい前だったかな」
Aくんの言葉が、また胸に突き刺さった。
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作者名：くらげ
| 作成日時：2021年10月17日 6時
