機転 ページ43
渡辺side
今日の披露曲は今月リリースされたばかりの
新曲だった。
新曲とはいえ、何度も練習して、
他の番組でも披露したこともある。
今日もきっと大丈夫だって。
正直、油断してたのかもしれない。
途中まで、なんのミスもなく
いつもと変わらないパフォーマンスを
届けられていた。
そんなとき、手がすべって、
マイクが床に落ちてしまった。
ゴンッと鈍い音がイヤモニから
聞こえてきた。
最悪だ、やらかした──。
振りの途中で、なるべくさりげなく
マイクを拾い上げたとき
事態は予想以上に最悪だってことに気がついた。
稼働しているときに光るはずの
マイクのランプが消えている。
スイッチを入れ直しても、
全く反応がない。
完全に、壊れてる。
これが収録だったら、すぐに撮り直して
もらえる。
けど、タイミングの悪いことに
今回は生放送だった。
他にもアーティストさんは控えているし
ここで止めてしまえば、
番組自体のスケジュールを
大きく狂わせてしまうことになる。
やばい、どうすれば……。
考えている間にも曲は進む。
この後には、俺のソロパートが待っている。
振りだけはなんとか合わせながら
必死に頭を働かせてみるけれど
頭が真っ白で何も思いつかない。
放送事故になるのを覚悟しながら
フォーメーションを移動したときだった。
誰かが俺の手からマイクを抜き取った。
すぐに戻ってきたのは
同じマイクの感覚。
けど、さっきと違ったのは
マイクの下の部分の色が
俺のメンバーカラーの青じゃなくて
水色なことだった。
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作者名：くらげ
| 作成日時：2021年9月20日 5時
