第六十七話【移ろう日々の中へ】 ページ47
ppp......
電波時計が十一時になった為、電子音を鳴らした。その音によって思考が中断された。つい考え事をすると、深く考え込んでしまう。悪い癖だ。私は今一度、時計を見た。確か三十分から今日の作戦の全体会議がある。前もって準備しておかなければ......私は書いていた書類を手に取り、席を立った。そしてドアノブに手を掛け、部屋を出た。
今日の任務も数多い任務の中の一つに過ぎない。それが重要か否かは別としてだ。それでも、一つ一つの任務が自身や他者の人生を懸けて遂行するものである。自身の利益の為に。組織の為に。どんな理由であれ、組織の命令より重要な意志などない。組織の命令に逆らえない事は誰もが知っている。私達は組織にとって足枷であり、駒である。それは組織に入った時、既に決まっていた事だった。
世の中が平和である事は良い事だ。しかし、誰もが明日何が起こるか分からない未来を抱えている。もし何かが起きたとしても、その事象を取り消す事は出来ない。そして、その事象が起きなければ多くの人が救えた。世の中はそんな事ばかりだ。誰の命を脅かされる事なく、過ごせる場所があり、明日がある。それが最小にして最大の幸福であるのだ。
誰もが明日への平和を、希望を願っている。しかし、そこに自身を脅かす未来を知ったらどう思うだろうか。
だから、知らない方がいい事がある。
自身に起こる悪い未来を知って何になるだろうか。初めから知っていなければ、気付いていなければ。こんなに苦しまなくて済んだのに。知りたくもない真実と向き合う事がどんなに酷な事かを私は知っている。
(知らない方が幸せな事がどれ程多いか......)
少し廊下を歩いていると、廊下の先で赤髪の男性の姿が見えた。 私は思わず立ち止まった。
誰にでも未来という曖昧な存在がある。普通ならば、その未来は誰も知らない。例え最悪が起ころうとも、その未来は変わる事なく襲いかかる。しかし、私は彼の未来を知っている。既に私は普通を逸脱した存在だった。
"───さぁ、未来を知った貴方は何をする?"
誰かの声が聞こえたような気がした。もしかしたら私自身への問いかけかもしれない。しかし、誰にどんな問いをされても答えは決まっている。
その答えは勿論......
「私は私のやるべき事をするだけ」
それは救済の道を選ぶ事。私にしか出来ない未来の改変。
私は男性に向かって歩き出した。
世界で私しか知らない未来を抱えて......
私は生きる。
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作者名:トキハル | 作成日時:2019年11月17日 14時