第六十二話【同じ日】 ページ42
パシッ......
花瓶の割れる音はしなかった。
「お二人とも、その位にして下さい」
私は花瓶の首を持ちながら言った。そして、サイドテーブルの上へ置き直した。その様子に二人は目を合わせた。
「仕方ない。今日はこの辺にしておこう」
「手前......覚えていろよ」
太宰は中原の威圧に気にも留めないまま歩き、椅子に座った。
私はその様子に少し溜息をついた。仲良くしろとは言わないが、彼らが言い争う度に部下からの"止めてくれ"という眼差しが痛い。二人を止める私の苦労も少しはわかって貰えると有り難いのだが......
私は彼らへの視線を外し、代わりに机の上の電波時計に目をやった。時刻は二十三時五十九分五十秒。
(零時まで......十......九......八......)
「まぁいい。さぁ、もう次の案件が来ているよ。次は反組織の制圧......決行は一週間後だ。それと......」
ボーン......ボーン......
部屋の振り子時計が深夜零時を示した為に鳴り響いた。
「さぁ、今日の天城会の制圧だが......予定通り決行だ。部隊は甲班と乙班に分ける。甲班には中也と芥川君を主力とし......」
ふと、太宰が言葉を止めた。
「どうかしたのか?」
不思議に思った中原が太宰に訊いた。
「中也......今日は何日だ?」
「はぁ?ンなもん......」
中原は部屋の机の上に置いてある電波時計を見た。今日は十四日の零時二分。確認の為に自身のデバイスも見たが、同じ時を示していた。何の狂いもない。
「今日は十四日だぜ。どうかしたのかよ」
中原はそれが当たり前であるかのように云った。
「十四日......いや、何でもない。さぁ、話を続けよう」
太宰は何も無かったように話を進めた。
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作者名:トキハル | 作成日時:2019年11月17日 14時