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しかし、夜陣でさえも、声部に入りそびれていることは事実。
それほど、龍華の演奏は凄まじい。
龍華に合わせて脚でリズムを刻みながら、樹が叫んだ。
「龍華さん、指の長さが半端じゃない!
あれなら普通は届かない十一度も届く!!」
「そういうことか!!」
「あいつ、背も、高いもんな……!」
結束が龍華を誇らしげに見た。
「龍華はやるといったらやるよ。ピアノに関しちゃな。
ほら、皆次のフレーズから入って!」
樹がすぐに入り、すると樹のテノールとピアノの間にぽっかり空いた空間ができたかのようにせいかには感じられた。
入りやすい、そう皆も感じたようで、結束の指揮と龍華のピアノに合わせて皆自然に歌えてしまった。
最後の小節のカララン!
という高いピアノの音で歌が終わり、誰からともなく笑顔がこぼれる。
レーレはすっかり得意げだ。
「できた……!
私ら、こんな難しい曲……!
龍華のピアノ、難し過ぎて合わせて歌う方もすごく大変って思ったのに、全然歌えた!」
黒川は悔しそうに呟いた。
「ふん……龍華……自我が強過ぎる……伴奏には向いてないんじゃないか」
龍華はにやりと笑った。
「初めて褒めてくれましたね、そうっす、オレはピアニストなんで。
本来伴奏向きじゃなくてオッケーっす。
せんせーあざす」
黒川はよりいっそう悔しそうな顔をした。
「お前なんかに感謝されたって響かんな!
あいつが、伝説の一騎当千『DTMer』がもしこの場にいれば、この曲だってきっとさらに鬼畜アレンジして弾いてしまっただろう……!
ただ譜面通りこなせたからって得意になるなよ……!」
「何だよ、伝説の……?
そいつが龍華と何か関係あるのか?
てか伝説のなんちゃらって最近どっかで耳にしたような……?」
レーレが訳がわからない、といった様子で呟いた。
龍華はとぼけた。
「あいつって誰すか?」
夜陣は険しい表情で、黙って黒川と龍華を観察していた。
せいかがとりなすように龍華に駆け寄った。
「龍華くん……やっぱりすごい!
龍華くんが弾いてくれると、皆いくらでも歌える気がする!」
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作者名:ルスブ | 作者ホームページ:http://twitter.com/rusbsss
作成日時:2022年9月9日 10時