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ひとりになってから、せいかは呟いた。
「裏声って楽しーい。面白い!
ありがとう……龍華くん」
夜陣は考えていた。
「せいかの裏声誘発を予測など、できるものか。五段目のサビは完全即興だ。
せいかの初裏声は時期がきたらオレがじきじきに、ふさわしい曲を持って解禁しようと思ってたのに、龍華にあっさり先を越されるとは……」
悔しそうな表情をしていた。
翌日。
目元にくまを作りながらも、イキイキとした樹が夜陣を捕まえた。
「夜陣さーん、先日の夜陣さんの五つ目のサビから着想したんですけど……」
「なんだ?
まさか作曲できるようになったのか、また盗作じゃないだろーな」
「作曲じゃなくて、五つ目のサビにイントロつけたり、伴奏つけたり、ハモりつけたり、裏メロつけたり、カウンターラインつけたり、あとジャンルも色々……」
「おいおい、そんなに詰め込んだら、絶対ごちゃるだろ」
「はい、だから、色々分割とかもしてたら、二十パターンできちゃいました」
「二十……。どうせ、十パターンくらい、数稼ぎのゴミだろ。だが聴かせろ……」
夜陣は驚いた。
「『捨て曲』がない!
しかも、コンセプトがどれも明確に聞き手に伝わる!
これはポストロック的ギターポップアレンジか!
これはシンセ・グリスの光るロック系ポップチューン! 十六ビートのピアノ・ロック! フォーキーなウッド・ベースサウンド! パワー・コードのみのエネルギッシュなアレンジ! テンション・コードでテンション・マックスアレンジ! ベースのみが別コードに進む見なしツーファイブ! 半音ずつ下がっていくクリシェがひたすら暗いアレンジ! 音域を大胆にとったモスキートもどきアレンジ! 太鼓入りマイナー・ペンタの和風ロック! メロディアスなソウルにJポップを加えたアレンジ! ブラック・ボックスのように日常の音をサンプリングしたブック・ミュージック! 一瞬の転調感がカタルシスなアレンジ! ニつ打ちと三つ打ちが絡む大人の味ボサノヴァ! スネアの残響でリバーブ感を印象付ける壮大なバラード! カマシの起伏が爽快なトランス! ギターとシンセの高速ハードコア! 荘厳なパイプオルガンのバロック的アレンジ! パワフルなアニソンアレンジ! こいつの引き出し……! オレが遺伝子を呼び覚ましたのはせいかだけじゃなく! 見極める必要があったのは龍華だけじゃなかった!」
樹は無邪気に得意顔をしていた。
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作者名:ルスブ | 作者ホームページ:http://twitter.com/rusbsss
作成日時:2022年9月9日 10時