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その瞬間、例のサビが終わると、そのサビのキャッチーさを引き継ぎながらもそれを包んで超えていくような壮大なメロディが奏でられ始め、龍華は瞬間的に指を開いてそのメロディを反芻するように、空でなぞった。
地獄を這うような声で、龍華は言う。
「なるほど、当初のサビのワンフレーズを一つ目のサビとした、二段式サビの曲にしたってわけカ。
しかも、ふたつ目のサビは……五度より一度も高くなる、六度音程カ!」
「そう、ここまで高い音が使えればだいぶ違う。
曲の完成度も、難易度も、歌姫への負荷もな。
最後のは、オレが知ったこっちゃないが。
ま、今はまだ裏声の使えない欠陥品の歌姫にはちと喉を痛めてもらうが、曲自体はデモを大きく上回る壮大なスケールの仕上がりで完結しそうだろう?
欠陥品のさらなる遺伝子書き換え準備を樹がしてくれたおかげだな」
「欠陥品ダト?!
く、そんなことを言うやつに、負けられねェ!
いや、これじゃまだ終われねェ……!」
龍華はたまたま側に転がっていた若干ほこりの被ったキーボードを手繰り寄せるとマイクの前にどん! と置いた。
「おい、龍華?!」
放送部が悲痛な声で叫んだ。
「やめてくれよぉ、アドリブで何か語ろうとすんのは!
失敗したら放送部の責任問題になるだろ!」
せいかがもう少しで歌い終わるという中、小声で訴える放送部を、龍華は目で黙らせる。
「指で語んだヨ、オレはな……それしかできねェ!」
そう言うと、せいかが歌い終わるのと同時に激しく鍵盤を弾き始めた。
鍵盤の上で、2つ目のサビの六度音程をさらに発展させた、八度、つまり一オクターブ飛躍するメロディが紡がれ出した。
「この高さで一オクターブ跳ぶ……だと?!」
余裕そうだった夜陣は青褪めた。龍華はせいかに目で合図した。
聴いたばかりの一オクターブ音程のメロディをせいかはかなり正確にハミングで歌った。
「高……!
これじゃせいかの喉は……!」
せいかはきょとんとしている。
夜陣が叫んだ。
「そうか!
この頭の先から抜ける超高音!
これは、裏声か!
だが、練習させても今まではミックスボイスまでしか出せなかったはずだぞ、龍華!」
「そりゃア、既存の曲にはないからだロ、こんな超跳躍音程。
お前が六度音程の曲を作ってくれたおかげで裏声発声の下地が整ったとオレは見たんだゼ。
そして、信じて、託して、歌わせた。
その渡したバトンが繋がったって話だ」
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作者名:ルスブ | 作者ホームページ:http://twitter.com/rusbsss
作成日時:2022年9月9日 10時