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龍華のカランポロンといった調子の小粒に揃ったイントロから始まり、四小節後にせいかが歌い出した。

出だしだから違和感はないが、声がやはり小さい。

龍華の伴奏に掻き消されそうな弱々しさだ。

 夜陣は冷静に分析する。

「生ピアノの単なるコードバッキングとはいえ、別のメロディがかえってせいかの声量のなさを際立たせている。

せいかには逆風だな。

それが、お前の本気なのか? 龍華よ」

 サビに歌唱が差し掛かる瞬間、龍華の眉と両手首がくっと釣り上がった。

 龍華は人知れず、呟いた。

「知ってるカ?

オーケストラの最もパワフルな技法のひとつに『ユニゾン』ってやつがあるんだゼ」

 夜陣は唸った。

「む、なるほど……これは超単純に見えて、効果が高い……」

 龍華は吼えた。

「それから、王道の『三度下ハモリ』もナ!」

 夜陣は動揺した。

「な、何だ?

左手での『コードバッキング』と右手のメロディとの『ユニゾン』に加え、『ハモリ』も加わっただと……?

おかしい……手は二本しかないのというのに」

 龍華は不敵に笑む。

「そう、これがオレが超絶技巧と呼ばれるゆえん……。

まるで手が三本あるかのように、鍵盤を自在にあやつル……。

夜陣よ、その位置からじゃ、どうやって弾いてるのか、見えねーだロ。

ま、オレは超絶技巧を見せつけるために用いたわけじゃナイ。

必要だったから、用いタ。

必要だとオレに判断させたところはさすがと褒めてやるゼ、夜陣!」

「……超絶技巧の正体とかはすごくどうでもいいが、確かに効果的だ。

ピアノ三重奏プラスせいかの歌声が相まって、せいかのサビ音量が突然アップしたかのように聞き手には感じられる。

いや、したかのようにというか、本当にアップしてないか?」

 首をかしげる夜陣。

 龍華が支えてくれているという実感でリラックスして声帯が開いたせいかは実際の音量もアップしていたのだが、夜陣がその心理まで理解できるはずもない。

 結果的に龍華とせいかのパフォーマンスは出だしがとても小さく、ラストで激しく盛り上がる壮大なバラードとなった。

「そして、これで、締めだ!

オレにしか出来ない、親指、中指、小指三本による、爆音グリッサンド!」

 龍華のジャララララン!

と右手を鍵盤の左端から右端まで滑らせる大胆技巧で曲は終わった。

 夜陣は険しい表情をしていた。

 そして、投票結果の開封。
 
夜陣と龍華が見守る中、せいかが伝えた。

何で二人とも負け犬っぽくなってるのよ、男の子って不思議ね。→←13



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設定タグ:青春 , 音楽 , オリジナル   
作品ジャンル:純文学, オリジナル作品
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作者名:ルスブ | 作者ホームページ:http://twitter.com/rusbsss  
作成日時:2022年9月9日 10時

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