#12 ページ12
・
15:00、
まず店長から任された仕事は看板作り。
当日、古本とレコードの横に並べて
お店の名前を宣伝するためらしい。
わたしたちは奥の倉庫からペンキやブルーシートを
引っ張り出して人通りの少ない路地裏に広げた。
ペンキ缶の蓋を開け、看板になる予定の板を置く。
いよいよ描き始めるというタイミングで
「くるみちゃーん」
とお店の中にいる店長から呼ばれた。
「ごめんね、先に進めてて」
「はーい」
わたしは立ち上がって裏口からお店に入る。
そして店長の定位置、レジカウンターの前へ行くと
こっそりと小さなメロンパンを2つくれた。
気さくで優しいおじいちゃん店長に
ぺこりとお礼をしてまた路地裏へ戻る。
「店長にメロンパン貰った!」
「お!食おーぜ!」
2人で盛り上がった矢先、
「あ、おれ食えないわ..」
とペンキで汚れた手のひらをわたしに向ける。
あからさまにへこむ元太くんが
可哀想に見えたから半分冗談で
「食べさせてあげようか?」と言うと
「いいの⁉」と嬉しそうに顔を上げた。
戸惑うわたしに気づかないふりをして
あーんと大きな口を開けて待つ元太くん。
今更冗談とは言えず小さなメロンパンをひとつ
彼の口に運んだ。
・
暖かい春の午後。
強い風が吹き、2人の髪を揺らす。
優しい匂いに包まれて溢れる愛おしさを
わたしはぜんぶメロンパンのせいにした。
・
62人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:生活 | 作成日時:2021年2月24日 12時