駆け抜けて、恋 (ページ1)

今日:20 hit、昨日:1 hit、合計:7,139 hit

#1 ページ1

・

春の風が心地よくてあくびがでる。

「ふぁ..」

目の前の松田さんもつられてあくびをしていた。

たぶんわたしと同い年くらいの

たぶん良い人..

彫刻みたいな顔だな、

古本とレコードを扱うまだ慣れないバイト先で

そんなことをぼんやり考えながらわたしは働いていた。

今日はたまたま休憩が重なった。

ああ、ひとりがよかったな..と思いながら、

少し離れた椅子に座って作ってきたお弁当を取り出す。

ちまちま食べながらぼーっとしてると

「それ自分で作ったんですか？」と彼に声をかけられた。

わたしは振り返って

「......そうですけど」と答える。

「ふぅん、おいしそ」

にこにこしながら気まぐれな返事をする松田さんに、わたしは照れながら小さく会釈した。

そろそろ戻らないと..

パタパタと片付けて席を立とうとする。

「伊坂さんて何歳」

また、後ろから松田さんに声をかけられた。

「20です」

「へぇ～」

「えっと..松田さんは？」わたしも一応聞く。

すると松田さんは

「げんたでいいよー」と席を立ち、休憩室の扉を開けて出ていった。

つかみどころのない、変な人。

自分の歳を教えてくれない彼と

勝手に同い年ってことにしてわたしも休憩室を出た。

・