嘘に願いを - keigo ページ4
-his side-
俺の昼休みの使い方は他の人と違う。
会社を出ればいくつものビルが並ぶ。
その間に少しだけ見える大きな建物、総合病院。
少し前から毎日通っている。
俺の恋人、Aに会いに行く為に。
突然倒れたらしい。
俺はその場にいなかった。
なんなら二日間、連絡も取れなかった。
あの日の仕事終わり、Aに電話しても出なかった。
Aはあまりスマホとか使わないタイプ。
電話に気づかないことは今までにもあったし、その日は深く考えなかった。
その翌日はお互い仕事が休みの土曜日だった。
何件もLINEを入れて、何度も電話を掛けた。
心配でAの家に行った。
5日前にAに、「鍵折れたから景瑚の貸して」 と言われ、ずっと大切に持っていた合鍵を渡したのを忘れていた。
何度もインターホンを鳴らし、何度もドアノブを捻った。
人のいる気配はしなかった。
一睡もできないまま迎えた翌日。
Aから電話が掛かってきた。
"ああ、良かった"と思った俺が大間違いだった。
確かに声の主はAだった。
いつもより声が少し掠れていたと思う。
「今私病院にいて」
細かい事は理解できなかった。
住所を聞いた。
三度聞き返した。
職場の一駅先にあるその病院へ駆け込んだ。
パニック状態で部屋番号が分からず、受付の人と軽く言い合いになっていた所に50代くらいの夫婦がやって来た。
二人の顔を見れば、Aのご両親だってことはすぐに分かった。
病室の前まで案内してもらったけど、用事があると言って行ってしまった。
震える手に力を入れて扉を開け、奥の窓側の部屋のカーテンの前に立つ。
「A?」
勢い良くカーテンが開いた。
『景瑚ごめんね、心配かけちゃって』
この前会った時と比べたら少し顔色が悪いものの、元気そうにしているAが言った。
『来てくれてありがとう』
『大丈夫?顔色悪くない?』
なんでこんな時に俺の心配をするんだよ。
「今は大丈夫なの?」
聞きたいことは沢山あるのに、こんなことしか聞けない。
『全然大丈夫!』
『ちょっと疲れ溜まってたみたいで』
「そっか、」
「いつ退院できる?」
『まだ何も言われてないけど、もうちょっとしたらできるでしょ!』
普段と何も変わらない君を見て俺は安心したんだ。
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作者名:桜桃 | 作成日時:2023年10月21日 14時