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もうすぐ、今年も終わる。
とにかく目まぐるしくて、半分以上自業自得でもあるけどとにかくもう忙しくて。
自分で自分の首をぎゅうぎゅう絞めながら全力疾走した、あっという間の一年だった。
……楽しかったなあ、今年も。
来年も、めっちゃ忙しくて、めっちゃ楽しいといいなあ、と心から思う。
僕も、そして勿論、彼も。
「あんたさあ、寒くないのその恰好で」
日もとっぷりと暮れた寒空の下、見るからに秋物の軽い上着を羽織っている僕の頭上から、須貝さんの呆れたような声が降ってくる。
「だって昨日まであったかかったじゃん」
「おん」
「だから今日もそうかなあ、と思って」
いつものように玄関のドアを開けたら、外気温が何故か1ケタだったんだよね。いや一晩で10度も下がるとか聞いてないし。
「山本さん、天気予報とか見んの？」
「そうねえ、あーんまり」
雨は大ごとだけど、寒いだけなら我慢すればいいし、オフィスに着けばあったかいしね。
ついでに、昨日は自宅からの出勤だったから、注意喚起してくれる人もいなかったし。
「そこまで寒くないから、うん。大丈夫」
4割くらいの痩せ我慢を押し隠して、元気に返事をする。隣を歩く須貝さんは早くも今年初マフラー姿で、なんでだか明らかに困ってる。
「誘いづらいわ、そんな薄着で夜歩かれへん」
え？
「どっか行くの？」
「いやまだ何も決めてへんけど」
これから更に泣くほど忙しくなるのが確定している師走の入り。
今日は珍しくも早めに帰れるから、どっかぶらぶらしようかなって思ってたんやけど、とこめかみを人差し指でぽりぽり掻きながら、サプライズで楽しいお誘いを持ってきてくれたみたい。
「行く行く！」
「いやその恰好じゃ寒すぎる。会社に上着置いてないん？」
「ないっ」
「あーもぉー」
次の1ムーブで、須貝さんのマフラーが、僕の首周りにふんわりとワープした。
「で、どこ行こか」
漸く少しだけ未知の禍から立ち直りつつある街は、年末に向けて赤と緑その他の煌びやかな光で満ち溢れている。
そうだ、どこ行こう。
明日も仕事、平日夜の自由時間は、それほど長くない。
「須貝さん、行きたいところある？」
「ん−別に。アナタがいればどこでも」
あらまあ。
……あ、そうだ。思い出した。
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作者名：しまむら | 作成日時：2021年8月25日 14時
