２０６話兄弟愛２ ページ37
「あ〜でもさ」
「なんだ？」
私は鬼道に改めて向き直る。
「春奈と私が仮に崖から落ちそうになっているとするじゃん？
そしたら、鬼道は春奈から絶対助けてね」
「……どういう意味だ」
「私は、自力で這い上がってくるから！」
春奈と私が危険な目にあった時、鬼道には迷ってほしくない。
真っ先に、血の繋がっている春奈から助けてほしいんだ。
私はなんとかなる。今までこうやって助かったんだし。
「約束ね」
「……そうだな、善処する」
どっちなんだ。
たはは、と笑っていると鬼道はポケットから大事にしまっていたものを出した。
2つの眼鏡ケースがあり、そのうちの1つを開けた。
その中には私の白ふちの眼鏡が入っていた。
そういえば、鬼道とぶつかったときに落とした気がする。
今は眼鏡がなくてもキラキラは抑えられているから大丈夫だったのですっかり忘れていた。
父さんから、もらった大事なものなのに……。
「あ、ありがとう鬼道……拾ってくれて」
「お前のトレードマークだろう。つけておけ。
……それともう一つ」
「え？」
鬼道はもう一つの眼鏡ケースを開ける。
そこには割れたサングラス……父さんのサングラスが入っていた。思わず息をのむ。
「これは、お前が持っていた方がいいと思ったんだ」
「いいの？私より……鬼道が持っていた方が」
「俺にはこのゴーグルだけで充分だ」
「あはは……そうか」
鬼道から眼鏡ケースを受け取る。
私はそっと、優しく抱きしめた。
父さんのものは何一つ残っていないと思っていたのに。
・
鬼道side
「じゃあな」
「うん！鬼道ありがとう」
俺は立ち上がって病室を出ようとする。
扉を開けて廊下を少し歩くと、そこには壁にもたれかかっていた春奈がいた。
「盗み聞きとはな」
「ごめんなさい、お兄ちゃん。……でもいいの？」
「？……何がだ」
「お兄ちゃん、自分に言い聞かせているみたいだった。
……『兄弟愛』みたいなものだって」
「！」
春奈に言われた言葉で俺は衝撃を受けた。
「……まさか、妹二人に考えを悟られるとは俺もまだまだだな」
苦笑をして通りすがりに春奈の頭に手を置く。
「見舞いに行ってやれ。Aが喜ぶ」
「うん！」
嬉しそうな顔をして春奈はAの病室へ向かっていった。
二人の会話は聞かないでおこう。
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