２０５話兄弟愛 ページ36
Aside
「A」
「鬼道！わざわざありがとな〜」
ノックして入ってきたのは、鬼道だった。
お見舞いの品を置いて、鬼道は無言で椅子に座った。
手を握ったり開いたり、喋ろうとしたり口を結んだりしている。
私は黙ってその様子を見ていた。
「影山総帥は、すごい人だった」
「！……うん」
「俺を鬼道財閥の養子として引き取り……サッカーを教えてくれた。
サッカーを憎みながらも、サッカーを愛していた人だった」
「そうだね。……父さんにもさ、優しいところあるんよ」
「総帥が？」
鬼道が顔を上げる。
「そう。まぁ小さいときの記憶だけど。
頑張ると大きい手でぽんぽん〜ってしてくれるんよな〜意外でしょ〜」
自分の手を上にのせて、ぽんぽんとする。
もうこの感触を味わうことは、できないんだな。
すると私と同じくらいの小さな手が私の頭に乗る。
それは自分の手ではなく、鬼道の手だった。
……温かさを感じる。
真面目に頭を撫で続ける鬼道がなんだか面白くて、私は笑ってしまった。
「ふふ、まだ手は小さいな〜」
「いつかあの人みたいに大きくなるさ。
……そうだ、その……お前さえよければだが……」
撫でて満足した鬼道が、咳払いをする。
私は撫でられすぎてくしゃくしゃになった髪を整えながら聞く。
「なんなん、改まって」
「……お前とは、血は繋がっていないが俺は家族のようなものだと思っている。
これからは、頼ってくれると嬉しい」
「鬼道……うん、ありがと」
私が笑うと鬼道は安心したように微笑んだ。
「鬼道の方がお兄ちゃんになるんかな？
でも私の方が先に父さんの元にいたし……」
「どちらでも構わないさ。春奈も、喜ぶだろう」
「そっか！春奈のお姉さんだ私！」
「……妹に見えるがな」
「え、」
鬼道は私が春奈によく怒られている現場を想像していたみたいだ。
──「Aさん！ご飯食べる前に手は洗いましたか！
というかつまみ食いしちゃだめですよ、Aさん！」
「うぇ〜」──
「ふざけ〜……お、お姉さんだし……」
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