１９８話始めたきっかけ６ ページ29
名残惜しいが冬花と別れる時間になった。
「それじゃあ、僕はAちゃんを送っていくから」
「Aちゃん、またね！」
「う、うん……またな〜」
家を出る時には冬花の顔が真っ白でよく見えなかった。
私は無人の帝国学園に戻り、ふらふらと廊下の壁に手をつきながら自室に戻ろうとする。
すると、真っ白の視界の中はっきりと見える人物がそこにいた。
「A」
「！！とう、さん……」
「無断で出掛けていたな」
「ごめんなさい、ごめんなさい！！」
「……失望したよ」
「っ！」
父さんの言葉がひどくのしかかる。
今思えば父さんは何もかもお見通しだったんだと思う。
飴と鞭の使いようがうまかった。私はまんまと騙されていたんだ。
私はサッカーをせず自室に籠るようになった。
小野さんもその日を境に忙しくなったのか来る機会も減った。
だけどある日、慌てた様子で小野さんは私の部屋に入ってきた。
「Aちゃん……！影山さんの元から離れて、一緒に暮らそう！」
」
「え……？」
「こんなところにいてはいけない……影山総帥は、悪い人なんだ！
君を閉じ込めたり、自分に逆らう人を消したりしているんだ。
帝国学園から抜け出そう。僕と一緒に！」
「……」
小野さんのキラキラが眩しすぎて、よく顔が見えない。
「冬花も待っている。家族として君を迎えようって話をしていたんだ」
「家族……」
家族の暖かさ、私は知ってしまった。
だけどそれは眩しくて、目がすごく痛かった。
小野さんが、私の肩に触れようとする。
「嫌っ……眩しいのは嫌っ！」
だけどそれを突き放してしまった。
「……そうか、ごめんね。君の目のことを僕は考えられていなかった。
でも必ず救われる日が来る。サッカーをしている限り、君は大丈夫だから」
「……」
小野さんは寂しそうな顔をして部屋を去った。
それ以来一度も見かけなかった。
私は気づいた。小野さんは影山総帥に踊らされていて、罪を着せられて殺された。
そして、冬花の家庭を破壊したんだ。
私のせいで……冬花は辛い思いをしてしまった。
あの時手を取っていれば変わっていたのかは分からない。
結局私は父さんのことを疑いつつも傍にいた。
利用されていると明確に気づくまで……随分と遅かった。
気づかないように、していたから。
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