１９５話始めたきっかけ３ ページ26
「えい！やあ！……あれ、難しいな〜」
自室にあるのは、分厚い本だけ。
父さんは私が暇しないようにと辞典のような本を与えてくれた。
もうすでに何度も見てしまったため、飽き飽きしていたところだ。
サッカーが近くにあったのに全くさせてもらえなかった反動で私はサッカーを一人で広い部屋で蹴りまくっていた。
父さんには内緒で試合を見たり、練習風景を見たりして見様見真似でやっていた。
悪いことをしているのは分かっている。でもこんなに楽しいものがあるんだって辞められなかった。
「いち、に、さん、し、ご……ろく！あっ！」
リフティングの練習をしていると、扉の方にボールが転がってしまう。
そのまま扉のボタンを押してしまったのか、廊下に飛び出して行ってしまった。
「うわ！？」
廊下から人の声が聞こえた。
私はボールを追おうと必死になっていたから、人に気づかなかった。
「こんなところに部屋が……！？」
「ぁ……！」
キラキラが溢れている男の人……私は見つかってしまったと思い急いで部屋の奥へ向かう。
やってしまった、父さんに怒られる。私のことを惑わしてくる……！
怖がっている私に反して、男の人は優しく私に離れた距離で話してくれる。
「影山総帥の……娘さん、かな」
「……」
「サッカー、好きなのかい？」
「……」
「……見てて」
男の人はボールを取って部屋の中に入って来る。
ビクッとして体を縮こませていると、男の人はリフティングを始めた。
「よっ、ほっ……ふふ、僕もまだまだ出来るもんだね……！」
「す、すごい……！」
こんな近距離で上手なリフティングを見たことがないから、私は目を輝かせる。
すると、軽く男の人は私にパスをしてきた。
条件反射で蹴って返す。突拍子もないところに飛んでいくそのボールを受け止めてくれた。
「上手じゃないか！君、名前は？」
「……影山、A」
「Aちゃんかぁ。僕は小野正隆だよ。よろしくね」
「……小野、さん」
小野さんは優しく私に微笑んでくれた。
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