三話 ページ4
「…A、前に来た時も言ったがお前は何も出来なかった訳じゃない。お前の眼がなければ負けていた布陣だってあった。
お前がいたから、今の璃月があるんだ」
「お気遣い感謝します、鍾離殿。ですが私は___」
「魈は、今でもお前を心配している」
どくり、と胸が高鳴る。その言葉に心臓を握られた気持ちになった。
鍾離殿は真っ直ぐ私を見ている。その瞳に嘘はない。虚偽は述べていない。だからこそ、思う。
────狡い。
先程、璃月で気掛かりなことがあり、未だにこの港に残っているということを話したと思うが、その気掛かりなことこそ魈のことである。
私が魈を溺愛していたことは周知の事実だ。かつて、純粋であったが故に魔神に弱みを握られ苦しんでいた彼を助けて欲しいと岩王帝君に願い出たのは紛れもなく私だ。
彼が孤独に、業障に苦しめられれば必ずその傍に寄り添ったのは他でもない私だ。
他者が見れば引く程に溺愛していた。異性としても、友としても、同僚としても、全てにおいて惹かれていた。
だから、一番意識して距離をとった。彼が人混みが苦手だということに付け込み、璃月でもっとも人の出入りが多い場所を居場所として選んだ。外に出る時だって、彼が苦手だと言ったものにばかり近付いて、隠れた。意味の無い行為までやってでも彼に会いたくなかった。
きっと会えば、丸め込まれてしまう。
彼は鍾離殿程口は上手くないが、私は鍾離殿と口論する以上に魈と口論する方が弱いのだ。
これが惚れた弱みだとでも言うのだろうか。
「…会いには、行けません。特に、魈には。
伝えられるのなら、いつまでも元気で、と伝えたいのですが」
「伝えればいいじゃないか」
「会いに行けないんですってば」
「意固地になってもいいことは無いぞ」
「そんなんじゃないです」
「A」
凛とした声が耳に届く。
話を聞き流す為に古本の整理をしていたこの手が止まる。
鍾離殿はじっと私を見ている。
鍾離殿のその目が苦手だ。
私が人の本音を見る事が怖くなって、目を恐れるようになってから、お前の前では決して嘘をつかないようにするなんて言って、事実彼は今の今まで一度だって私に嘘をつかなかった。
その澄んだ瞳が、余計にひねくれた心に刺さる。
その瞳に心の内側で懺悔しながら、神の次の句を待った。
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りー - 理由把握いたしました。先日は失礼なこと言ってしまって申し訳ありません。五月病など無理なさらないでくださいね。 (2021年6月3日 17時) (レス) id: d04a74515a (このIDを非表示/違反報告)
りる - とりまろ。様はもう小説は書かれないんですか…? (2021年5月31日 7時) (レス) id: d04a74515a (このIDを非表示/違反報告)
り - すみません絵じゃなくて小説です…誤爆しました… (2021年5月26日 18時) (レス) id: d04a74515a (このIDを非表示/違反報告)
り - イッキ見しました…ひゃえ…大好きです主様の絵好きです更新まってます!! (2021年5月22日 0時) (レス) id: d04a74515a (このIDを非表示/違反報告)
星 - 小説とても面白くて大好きです!更新頑張って下さい! (2021年4月25日 14時) (レス) id: 43b4052d04 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:とりまろ。 x他1人 | 作成日時:2021年3月31日 20時