寝たきりクイズ大会 ページ9
「こないだあなたに油塗れの昼飯に誘われて、そこで炭水化物バカになった結果、ほとんど忘れました」
もさもさの黒い塊がくるりと振り向く。
乱れに乱れた前髪の間から見える、綺麗な三日月型の瞳。
「ホントに？ 須貝さんそんなバカじゃないでしょ？」
笑顔を作って、本音と真実を見抜こうとしてる目だなコレは。
「まあ、山本さんがみんなの分まで頑張る言うてたしね。そこに期待するわ」
「あらまあ、余計なこと言っちゃった」
「知らんわ」
仰向けになろうとする身体を、腕に触れないようにそっと手伝ってやる。
姿勢が安定するや否や、不意にどこかで聞いた声のトーン。
「問題。消しゴム付鉛筆の」
「フェルール」
「せいかーい」
これも聞きなれた、嬉し気な高い声。ちょっと弱いけど。
「おいこら、高熱寝たきりクイズ大会やめろ」
「え、楽しいんだけど」
「コ〇ナ予防接種当日クイズ大会か？ お、これもしやワンチャンあるな俺」
「じゃあ次は須貝さん問題出してください」
「ん〜……ちょい待ち」
空いた手でスマホのみんはやを立ち上げる。
いやいいんか、ぶっ倒れてる奴にクイズ出して。
「はやくー。ヒマなんだから」
「ルールは誤答即睡眠な。始めます」
「えー」
見てろとびっきりの世界史問題ぶつけたる。覚悟して沈め。そして眠れ。
「問題。かつてインド中部に存在したジャーンシー王国の王妃で」
「ラクシュミー・バーイー」
知っとんのかい！
「頼むからとっとと誤答して寝ろ」
「なら早く僕の知らない問題出して」
「おいお前えぇぇ」
「誤答までやるんでしょ。早くー」
いつもよりさらに薄く掠れた声。
薄く赤みが広がる顔と、もしゃもしゃに乱れた髪。
その状態で、あなた何でそんなに楽しそうなのよ。
思わず俺まで口元が綻んでしまうくらいに。
結局このクイズ大会は、最後まで山本が回答権を手放さないまま、限界寝落ちで不意に幕を閉じた。ちょっとは答えさせろや。
窓の外はいつの間にか、一面のオレンジ色。
すっかり暗くなったら一度起こして、メシ食えるか聞いてみようかね。
おやすみ。
熱下がるといいな。
おわり
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 82人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：しまむら | 作成日時：2021年7月10日 10時
